1.はじめに 本件は、第一審判決以来、社会的に非常に注目されてきた事案であるが、東京地裁の第一審判決、東京高裁の原審判決、そして本件最高裁判決のすべてがそれぞれ判断を異にするという異例の展開となったのみならず、第三小法廷の5人の裁判官全員一致の結論であるにもかかわらず、すべての裁判官が補足意見を述べている(ただし林道晴裁判官は渡邉惠理子裁判官と同一意見なので、独立した補足意見としては4本)という点でも、きわめて稀な判決である。また内容的にも、直接にはトランスジェンダーである者の性自認に基づくトイレ使用がどこまで認められるべきかというそれ自体重要な課題を扱ったものであるが、より広く、いわゆるLGBTQなどの性的少数者の権利保障のありかたを問う構造となっており、今後の社会的対応に大きな影響を与えることは間違いない。なお、本件では経済産業省(以下「経産省」とも表記する。)の措置やハラスメントに対