そう言ったのは『白い巨塔』の財前助教授だが、駅で列車を待つ人も車内にいる人も椅子があればたいてい腰を下ろしたい。 ところが、車内でもホームでも駅構内でも椅子はますます減っている、ように思える。椅子はあるにはある。以前は過剰なほど並んでいた板ばりの薄汚れた長椅子は姿を消し、肘のせまであって定員区分もきっちり、まっすぐ座ることを定義した椅子がこぢんまり置いてある。 無意味なほど長い客車を連ねてやってくる列車も消えた。 そんな駅のホームでは、ただでさえ少なくなった椅子に座って列車の到着を待つ人も実際は少ない。座りたくないのではなく、立って乗車位置に並んでいなければ、たった3両か6両でやってくる列車はつねに混み合っているので、のんきに椅子で待っていたら車内で座れなくなる可能性大だからである。ホームの椅子が少なくなれば大半の乗車位置と椅子との距離も遠くなるので、座る人はますます減る。そしてさらに減る