私が最も尊敬する同僚は、イラン人のMさんだ。 Mさんは、イランの大学を出てから、英国で博士号を取って、国際機関に入った。そこから実績を重ね、最終的にはDirector(日本の中央省庁でいえば審議官/部長クラス)に出世した。定年後はコンサルタントとして再雇用され、私の所属する部署に身を置いている。 これまで仕事で訪れた国は、ソ連とか、DDR(東ドイツ)とか、ユーゴスラビアとか、いまでは絶対に行けない国も含めて、実に119ヵ国という。大変な国際人なのである。 そんなMさんの持ち味は、人生の酸いも甘いも噛みわけた、注意深く濾された茶葉のようなユーモアセンスだ。 ある日、ギリシャ料理店でMさんは言った。 「ギリシャ・コーヒーを飲むとき、最も注意すべき点を知っているか?」 「なんでしょう」 「トルコ・コーヒーと言わないことだ。もし言えば、きみは店から追い出される」 「なるほど。でもトルコとギリシャの