「玄関から草どころか木が生えていて」 「じゃあ下の方はもう誰もおらんのやな」 初めてこの島に来た時、夜の暗さにびっくりした。 方向は道の灯りではなく、音で判別するものと初めて知ったのだった。 波の音が聴こえる方が海、風の音が聴こえる方が山。 自分と闇の境目は今にも溶けそうで、私は自分の肩を自分でぎゅっと抱いた。 夫の人が生まれ育ったこの島は今はもう190人しか住んでいない。 公式での記録がそうなだけで、籍だけおいて島の外に住んでる人間もいるから体感では100人ちょっと、と、おじいちゃんは言う。 コンビニも信号機も交番も無い島。 島にはおじいちゃんとおばあちゃんが2人で住んでいる。 おじいちゃんとおばあちゃんは、夫の人のお父さん方の両親で、お父さんは海で亡くなってもういない。 「階段を上がる音が聞こえてん」 お父さんが海で事故にあって船が見つからぬと騒ぎになっていた朝、うとうととした時に足音