父の母への暴力は凄まじいものだった 殴る蹴る髪を引っ張って引きずり回す そこらじゅうにある物をぶつける ぎゃああという悲鳴が響いて、私はたまらず耳を押さえたけれど そんなことでは到底音は塞げるものではなくって だから近くにあったコタツに潜りこんだりした 母は包丁を毎日違う場所に隠した でないと殺されると思ったのだと思う 父が居ないときを見計らってぐるぐると何重にも新聞紙で巻いて 引き出しの中や食器棚の中に隠していた それでも家中に武器はあるから だから母の顔や体にはいつも痣があった それでも母は決して泣いたりしなかった いつも明るく冗談を言ったり、私の宿題を見てくれたりした ごはんも毎日美味しかったし 授業参観の日には誰のお母さんよりも早く教室に来て元気に手を振ったりした それは少し恥ずかしかったけれど、ちょっとだけ誇らしかった記憶がある 父の毎晩の暴力なんて微塵も感じさせない強さがあった
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