本書の基本的主張は前章までに十分示されているが、桧垣はさらに理論的検討を積み重ねる。アメリカにおけるヘイト・スピーチの規制をめぐる議論として、まず「表現の自由の原理論」として、思想の自由市場論、自己統治の理論を取り上げる。その上で、規制に消極的な議論として、ベイカーとポーストの見解を紹介・検討し、次に規制に積極的な議論としてヘイマンとツェシスの見解を紹介・検討する。 桧垣は「どちらの価値が優先されるか」として、自律理論を検討した上で、「しかし、思想の自由市場論又は自立理論は、表現の自由の中心的な価値とはならないと考えるべきである。なぜならば、これらの理論をとり、修正1条の範囲を拡大すると、公的言説に与えられた強力な保護を希釈することになりかねず、また、民主的過程に委ねられるべき問題にまで介入する力を司法部に与えることになってしまうからである」という。