これまでこのブログでは文学や美術、演劇といった表現を問わず、多くの作品についてレヴューを重ねてきたが、正直言って今回ほどレヴューの困難な対象を扱うのは初めてだ。それは対象自体がジャンルを横断し、虚実を横断し、言語を横断するからであろう。果たしてこのような作品にいかなる言葉で、いかなる方法で応接することが可能だろうか。 今回取り上げるのはオーストリアのドイツ語作家エルフリーデ・イェリネクの作品集『光のない』である。収められた四つのテクストはいずれも戯曲であり、特に表題作は2012年の「フェスティバル/トーキョー」で劇団地点によって演じられて大きな話題を呼んだから、決して無名のテクストではない。「光のない。」は昨年も京都で再演されたが、残念なことに私は見逃してしまった。したがって本書はまず文学と演劇を横断する。しかし後で論じるとおり、この作品において両者の関係は決して親和的ではない。本書には「