アメリカンコミックスの頂点として誰もが認める一作、それが『ウォッチメン』である。『ウォッチメン』が発売されたのは1986年、発売元のDCコミックスにとって、後に奇跡の1年とも称される年だった。 バットマンの最期を描き、その後のコミックスの流れを決定付けた『ダークナイト・リターンズ』スーパーマンの再生を果たした『マン・オブ・スティール』バットマンのオリジンを再定義した『イヤーワン』そして『ウォッチメン』が次々と発表された、コミックスの歴史に残る1年だったのである。 とはいえ、その1年は突然変異的に訪れたのではない。その種は5年近くの時をかけて成長を続け、花開いたのだ。 当時、アメリカのコミック業界は、かつてない熱気に包まれていた。半世紀の間、子供の読み物としてメディアの最下層にあったコミックブックが、大人の鑑賞に堪えうるメディアとしての地位を確立しつつあったのだ。 そのきっかけを辿れば、19