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ブックマーク / www.aozora.gr.jp (9)

  • 須川邦彦 無人島に生きる十六人 - 青空文庫

    これは、今から四十六年前、私が、東京高等商船学校の実習学生として、練習帆船琴(こと)ノ緒(お)丸(まる)に乗り組んでいたとき、私たちの教官であった、中川倉吉(なかがわくらきち)先生からきいた、先生の体験談で、私が、腹のそこからかんげきした、一生わすれられない話である。 四十六年前といえば、明治三十六年、五月だった。私たちの琴ノ緒丸は、千葉県の館山湾(たてやまわん)に碇泊(ていはく)していた。 この船は、大きさ八百トンのシップ型で、甲板から、空高くつき立った、三の太い帆柱には、五ずつの長い帆桁(ほげた)が、とりつけてあった。 見あげる頭の上には、五の帆桁が、一に見えるほど、きちんとならんでいて、その先は、舷(げん)のそとに出ている。 船の後部に立っている、三木めの帆柱のねもとの、上甲板に、折椅子(おりいす)に腰かけた中川教官が、その前に、白い作業服をきて、甲板にあぐらを組んで、いっし

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    yamifuu 2021/08/22
  • 寺田寅彦 学位について

    「学位売買事件」というあまり目出度(めでた)からぬ名前の事件が新聞社会欄の賑(にぎ)やかで無味な空虚の中に振り播(ま)かれた胡椒(こしょう)のごとく世間の耳目を刺戟した。正確な事実は審判の日を待たなければ判明しない。 学位などというものがあるからこんな騒ぎがもち上がる。だからそんなものを一切なくした方がよいという人がある。これは涜職者(とくしょくしゃ)を出すから小学校長を全廃せよ、腐った牛肉で中毒する人があるから牛肉をうなというような議論ではないかと思われる。 こんな事件が起るよりずっと以前から「博士濫造」という言葉が流行していた。誰が云い出した言葉か知れないが、こういう言葉は誰かが言い出すときっと流行するという性質をはじめから具有した言葉である。それは、既に博士である人達にとっても、また自分で博士になることに関心をもたない一般世人にとっても耳に入りやすい口触わりの好い言葉だからである。

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    yamifuu 2014/07/22
  • 牧野信一 地球儀

    祖父の十七年の法要があるから帰れ――という母からの手紙で、私は二タ月ぶりぐらいで小田原の家に帰った。 「このごろはどうなの?」 私は父のことを尋ねた。 「だんだん悪くなるばかり……」 母は押入を片付けながら言った。続けて、そんな気分を振り棄てるように、 「こっちの家はほんとに狭くてこんな時にはまったく困ってしまう。第一どこに何がしまってあるんだか少しも分らない」などと呟(つぶや)いていた。 「僕の事をおこっていますか?」 「カンカン!」 母は面倒くさそうに言った。 「ふふん!」 「これからもうお金なんて一文もやるんじゃないッて――私まで大変おこられた」 「チェッ!」と私はセセラ笑った。きっとそうくるだろうとは思っていたものの、明らかに言われてみるとドキッとした。セセラ笑ってみたところで、私自身も母も、私自身の無能とカラ元気とをかえって醜(みにく)く感ずるばかりだ。 「もうお父さんの事はあて

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    yamifuu 2013/01/19
  • 蟹工船 (小林 多喜二)

    秋田県の農家に生まれ、北海道小樽で育つ。「1928年3月15日」「蟹工船」などの作品により、日のプロレタリア文学運動を代表する作家となった。1933年、地下活動中に逮捕され、東京・築地署で拷問により殺された。 「小林多喜二」

    蟹工船 (小林 多喜二)
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    yamifuu 2008/05/30
  • 図書カード:ドグラ・マグラ

    名・杉山泰道。右翼の大物・杉山茂丸の子として生まれ、はじめ農園経営に従事。僧侶、新聞記者などを経て、作家に。死の前年に書かれた大作『ドグラ・マグラ』をはじめ、怪奇味と幻想性の色濃い作風で日文学にユニークな地歩を占める。 「夢野久作」

    図書カード:ドグラ・マグラ
  • 『青空文庫 全』寄贈計画のお知らせ

    青空文庫図書館の書架に! 『青空文庫 全』寄贈計画のお知らせ 2007年10月26日 2010年4月10日 更新 青空文庫 ▲上の画像のクリックで、『青空文庫 全』が開きます。 プリント用の高解像度版は、ここをクリックしてダウンロードしてください。(9.6Mバイトあります。) 【寄贈計画ニュース:2010年4月10日版】 ・2010年4月10日(土)、残部がつきたので、『青空文庫 全』の配布を終了しました。 ・2008年1月13日(日)、公開作品の書誌データをまとめて取得する際に利用できる、 「作家別作品一覧」に関する内容を、「青空文庫早わかり」に書き足しました。『青空文庫 全』DVD-ROM収録作品の書誌データを得る際にも、「一覧」は使えます。 ・2008年1月、国際交流基金情報センターライブラリーのご支援を得て、海外図書館へ寄贈の輪が広がり始めました。 ・2007年12月13日(木

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    yamifuu 2007/10/26
  • 宮沢賢治 セロ弾きのゴーシュ

    ゴーシュは町の活動写真館でセロを弾く係りでした。けれどもあんまり上手でないという評判でした。上手でないどころではなく実は仲間の楽手のなかではいちばん下手でしたから、いつでも楽長にいじめられるのでした。 ひるすぎみんなは楽屋に円くならんで今度の町の音楽会へ出す第六交響曲(こうきょうきょく)の練習をしていました。 トランペットは一生けん命歌っています。 ヴァイオリンも二いろ風のように鳴っています。 クラリネットもボーボーとそれに手伝っています。 ゴーシュも口をりんと結んで眼(め)を皿(さら)のようにして楽譜(がくふ)を見つめながらもう一心に弾いています。 にわかにぱたっと楽長が両手を鳴らしました。みんなぴたりと曲をやめてしんとしました。楽長がどなりました。 「セロがおくれた。トォテテ テテテイ、ここからやり直し。はいっ。」 みんなは今の所の少し前の所からやり直しました。ゴーシュは顔をまっ赤にし

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    yamifuu 2007/05/16
  • 青空文庫 - 小栗虫太郎 黒死館殺人事件

    [#改ページ] 聖(セント)アレキセイ寺院の殺人事件に法水(のりみず)が解決を公表しなかったので、そろそろ迷宮入りの噂(うわさ)が立ちはじめた十日目のこと、その日から捜査関係の主脳部は、ラザレフ殺害者の追求を放棄しなければならなくなった。と云うのは、四百年の昔から纏綿(てんめん)としていて、臼杵耶蘇会神学林(うすきジェスイットセミナリオ)以来の神聖家族と云われる降矢木(ふりやぎ)の館に、突如真黒い風みたいな毒殺者の彷徨(ほうこう)が始まったからであった。その、通称黒死館と呼ばれる降矢木の館には、いつか必ずこういう不思議な恐怖が起らずにはいまいと噂されていた。勿論そういう臆測を生むについては、ボスフォラス以東にただ一つしかないと云われる降矢木家の建物が、明らかに重大な理由の一つとなっているのだった。その豪壮を極めたケルト・ルネサンス式の城館(シャトウ)を見慣れた今日でさえも、尖塔や櫓楼の量線

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    yamifuu 2006/06/01
  • 寺田寅彦 科学者とあたま

    私に親しいある老科学者がある日私に次のようなことを語って聞かせた。 「科学者になるには『あたま』がよくなくてはいけない」これは普通世人の口にする一つの命題である。これはある意味ではほんとうだと思われる。しかし、一方でまた「科学者はあたまが悪くなくてはいけない」という命題も、ある意味ではやはりほんとうである。そうしてこの後のほうの命題は、それを指摘し解説する人が比較的に少数である。 この一見相反する二つの命題は実は一つのものの互いに対立し共存する二つの半面を表現するものである。この見かけ上のパラドックスは、実は「あたま」という言葉の内容に関する定義の曖昧(あいまい)不鮮明から生まれることはもちろんである。 論理の連鎖のただ一つの輪をも取り失わないように、また混乱の中に部分と全体との関係を見失わないようにするためには、正確でかつ緻密(ちみつ)な頭脳を要する。紛糾した可能性の岐路に立ったときに、

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    yamifuu 2005/06/11
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