ここにきて、奇妙な逆転現象が生じている。 現在、写植の書体をいちばん身近に感じているのは、ひょっとすると、文字の読み書きを覚えて間もない子どもたちかもしれない。 どうしてかというと、他のジャンルに比べてロングセラーが多い子どもの本には、いまでも写植の文字がのこっているから。 その理由を、絵本の編集者の方に訊ねてみたことがある。 話によると、同じロングセラーでも、実用書、文庫の場合は、改訂や新装版にあわせてDTPに変えることが多い。でも、新刊書店で児童書の棚にずっと置かれているような絵本は、つくりなおすタイミングがむずかしいという事情らしい。 世代を超えて長年愛されている『ぐりとぐら』も、そうした「タイミング」が訪れていない名作絵本の一冊だ。 野ねずみの「ぐり」と「ぐら」は、森のなかで大きなたまごを見つけ、カステラをつくることにする。 ふんわりと焼きあがった黄色いカステラに、子どものころ心奪