とにかく遠くへ!とにかく西へ! 一号機水素爆発の最初の報道が出たときに、自分が誰それ構わず電話口で叫び続けていた事だった。 西へ!逃げられるなら西へ! 自分はともかく、現状が心配で電話のかかって来る人間には必死でそう言い聞かせた。 同じくらい『逃げろ』と言ってくれる人も多かった。 それまで、埼玉の山の中に根を張って暮らしていた友人は長野のどこかのパーキングエリアから電話をかけてきて僕にものすごい剣幕でまくし立てた。『一号機が爆発してすぐに家族を全員ワゴン車に乗せて高速に飛び乗って逃げた、とりあえず西に、上関を目指していくけどその後は分からない、ラジも逃げられたら向こうで!』と言って、ひたすら西へと走って行った。そんな家族が他にも数家族いた。勿論、海外へと旅だって行く人も居た。当然の選択だと思った。 僕は結局そうしなかった。そう出来る状況ならとっくに逃げていた。 ただ単に芝居の稽古中で、数週
![いしだ壱成『西へ!』](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/51b956d227208fc610fc4e9b29bd0b82995d5452/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fstat100.ameba.jp%2Fspskin%2Fheader%2Ftalent%2Fi%2Fisseiishida.jpg%3F20240215)