それから10数年。私は結婚をした。 付き合ってすぐに子供ができ、相手の性格も趣味もよく分からずに一緒になった。 そんな相手は大の競馬好きだった。 大きなお腹を抱えた私は、ひとりで新居を探して歩いた。 やっとのことで見つけた部屋は、西国分寺駅から徒歩20分のところにあるマンション。 引越を済ませ、2人で近所を散策していて気が付いた。 そこは東京競馬場の近くだった。 そうと分かった旦那は、日曜日になると自転車にまたがり、競馬場へ通った。 旦那のその習慣は、息子が生まれても変わることはなかった。 ダービーの日のこと。 私は40度の熱に冒された。 今日だけは子供を見て欲しい。私は懇願した。 旦那は困り果てた。眉間にシワを寄せ、布団に横たわる母子を見つめた。 「……分かった。今日は早く帰ってくる。飲みに行かない。17時には帰ってくる」 競馬場へ行くのかよ…。 「……仕方がないんだよ。席を取っちゃった