「作家になるはずでは…」 「売れっ子作家の夫になったと思われがちなのですが、大間違いなんです」 祇園祭期間中の7月17日。山鉾が立ち並ぶ四条通に面する大丸京都店の6階美術画廊で行われたトークショーで、亡き山村美紗の夫だった巍さん(92)が語り始めた。 「美紗は本来、推理作家になるはずではなかった」 山村美紗(1931~96年)は京都に住み、京都を舞台にした推理小説を多く手掛けた。その数は200冊以上に及び、往時は高額納税者として新聞に名前が載った。亡くなって25年になる今も、名前を冠した2時間ドラマが放映される。まさしく日本を代表する「ミステリーの女王」の私生活は従来、謎に包まれていた。その誕生の裏には、巍さんの指南があった。 やまむら・みさ 京都大学教授を務めた父の仕事の関係で、日本統治下の朝鮮・京城で育つ。京都府立女子短期大学卒業後、伏見中で国語を教え、数学教師だった巍さんと結婚後に退