リスク論から眺める農業環境をめぐるトレードオフ 独立行政法人 農業環境技術研究所 有機化学物質研究領域 永井 孝志 1.はじめに ~リスクとハザード~ リスクとハザードはともに「危険」と訳されるが、環境リスク管理を考える際にはリスク とハザードの違いを明確にしなければならない。包丁はそれ自体は殺傷能力を持つハザード であるが、料理人が使う分には実際のリスク(人に危害が及ぶ可能性)は低い。化学物質で は H2O(水)は数時間以内に 10−20 l の摂取で致死にいたるハザードである 1)が、通常のリ スク(10−20 l 摂取する可能性)は低い。また、水がなければ当然ヒトは生きてゆけないた め、ハザード自体を取り除くことは不可能である。このように、化学物質の場合はある閾値 を超えなければ実際の有害性の発現には至らない (ハザードはあるがリスクはない) 。 ハザー ドの有無ではなく、 リスクを