父が母を叩くのを初めて見たのは、幼稚園でいうところの「年中さん」、つまり4歳から5歳にかけてのころだった。 パシン! 母は頬を叩かれ、それを見た俺は怖かったのか、悲しかったのか、それ以外のなにかだったのか分からないが、父母に背中を向けて泣いた。そんな俺に父は失笑しながら言った。 「なんでお前が泣くんだよ」 天井から虫が這い出てくるようなオンボロ借家の居間で、俺は肩を震わせ続けた。そのあとどうなったか、そこの記憶はない。 俺が小学校に入る一年前に、家族はピカピカの新築に引っ越した。子ども部屋には惑星や宇宙船が描かれた壁紙が張られ、リビングにはソファ、キッチンにはカウンター。新生活はワクワクに満ちた新鮮なものだったが、そんなものに価値があるのは最初だけだ。 父母の仲は年々冷え込んでいき、父は外に女をつくり、家ではときどき母にひどい暴力をふるった。俺も弟も妹も、父を恐れた。だが、悲しいかな、子ど