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  • 第6章 自分の老後が不安です|マンガ認知症2|ニコ・ニコルソン,佐藤 眞一,小島 美里|webちくま(1/2)

    宮城県山元町出身のマンガ家・イラストレーター。 東日大震災で実家が全壊し、女三代で建て直すまでの道のりをコミックエッセイ『ナガサレール イエタテール』(太田出版)で描く。 その後、祖母が認知症を発症。建て直した家での介護生活の様子は、『婆ボケはじめ、犬を飼う』(ぶんか社)、『わたしのお婆ちゃん』(講談社)に描かれている。 http://nico.nicholson.jp/ 大阪大学大学院人間科学研究科臨床死生学・老年行動学研究分野教授を定年退職し、現在は大阪大学名誉教授、大阪府社会福祉事業団特別顧問。博士(医学)。 認知症を心理的な面から研究しつづけ、日老年臨床心理学会理事、日老年社会科学会理事、日応用老年学会理事、長寿科学振興財団理事などを務める。元日老年行動科学会会長。 著書に『認知症 「不可解な行動」には理由がある』(SB新書)、『認知症の人の心の中はどうなっているのか?』

    第6章 自分の老後が不安です|マンガ認知症2|ニコ・ニコルソン,佐藤 眞一,小島 美里|webちくま(1/2)
  • 記録へのこだわりと執念|ちくま新書|佐藤 信弥|webちくま

    2024年大河ドラマ『光る君へ』で、主人公のまひろ(紫式部)が学んでいた歴史書『史記』。その執筆にあたって、司馬遷はどのようなものを参照したのでしょうか。古代中国王朝の「記録」を出土文献に探り、歴史観の興りや歴史認識の変遷を読みとく『古代中国王朝史の誕生』冒頭を公開します。 中国古代の歴史書に関して、筆者には好きな話がひとつある。『春秋左氏伝(しゅんじゅうさしでん)』の襄公(じょうこう)二十五年に見えるエピソードである。春秋時代、現在の山東(さんとう)半島に位置する斉(せい)の国に崔杼(さいちょ)という重臣がいた。この人が棠姜(とうきょう)という未亡人にひと目ぼれしてに迎えた。 ところが悪いことに斉の君主の荘公(そうこう)が以前からこの棠姜と私通していたのである。だから彼女が崔杼と再婚したあとも、荘公は崔杼の邸宅に通って関係を続けた。それだけでなく彼の冠を持ち出して人に与えて辱(はずかし

    記録へのこだわりと執念|ちくま新書|佐藤 信弥|webちくま
  • 二十一世紀の日本の首都に於ける超高層ビルの林立はその国の凋落を予言しているように思えてならない|些事にこだわり|蓮實 重彦|webちくま

    蓮實重彥さんの連載時評「些事にこだわり」第15回を「ちくま」9月号より転載します。延々とつづく渋谷駅周辺の再開発。東横線の地下化はじめ誰も便利になったとは思っていないはずの一連の大工事は都市再開発法によると「公共の福祉に寄与することを目的とする」そうなのだが、当に? との疑問についてお話しさせていただきます。 避けようもない暑い日ざしを顔一面に受けとめながら、タワーレコードの渋谷店で購入した海外の雑誌を手にしてスクランブル交差点にさしかかると、すんでの所で信号が赤となってしまう。階段を降りて地下の通路に向かう方法もあるにはあったが、年齢故の足元のおぼつかなさから灼熱の地上に立ったまま青信号を待つことにしていると、いきなり、かたわらから、女性の声がフランス語で響いてくる。ふと視線を向けると、「そう、シブーヤは素晴らしい」と「ウ」の部分をアクセントで強調しながら、スマホを顎のあたりにあてた外

    二十一世紀の日本の首都に於ける超高層ビルの林立はその国の凋落を予言しているように思えてならない|些事にこだわり|蓮實 重彦|webちくま
  • ウクライナ戦争が問う我々の人間性|ちくま新書|小泉 悠|webちくま

    ちくま新書『ウクライナ戦争』の著者・小泉悠氏が、戦争について、人間について、悪について、子供たちについて、その質を率直に語った貴重なエッセイ。PR誌「ちくま」1月号より緊急転載いたします。 戦争という現象にはいろいろな顔がある。直接の戦争経験を持たず、軍事オタクとして生きてきた筆者が戦争と聞いてまず思い浮かべてきたのは、「戦闘」だった。巨大な軍隊同士が火力や機動力を発揮して敵の殲滅を目指す暴力闘争。これは間違いなく戦争の一つの顔ではある。 しかし、12年前に子供を持ってから、戦争の別の側面を意識するようになった。子供という、この弱くて壊れやすいものを抱えながら生きていくということは、平時の社会においてもなかなかに緊張を強いられるものがある。すぐに熱を出す、とんでもないことで怪我をする、迷子になる。そういう子供との暮らしに、爆弾が降ってくるのが戦争である。あるいは、子供にべさせるものがな

    ウクライナ戦争が問う我々の人間性|ちくま新書|小泉 悠|webちくま
  • ⑦ 異物を街に残すために|迷い線のあいだに|藪前 知子|webちくま

    アートとは何か、アートは社会とどう関われるか。気鋭のキュレーターがアートの役割を根源から問いなおす、コラム連載第7回。 異質なもの、理解できないものと出会う機会 これまで、アートが美術館の中だけで存在するのではなく、地域やコミュニティの中へと出て行く可能性についてあれこれ考えてきた。その動機について問いかけたとき、これまでたくさんのプロジェクトを手がけてきたある人が、こう答えていたのを思い出している。「まちのなかで、そこにいる人たちに、異質なもの、理解できないものと出会う機会を作りたい。そういうことがどんどん無くなって行く世の中だから」。 例えば、先ごろ終了した、岡山市内の各所を使った大規模なアートプロジェクト「岡山藝術交流」で、多くの観客が最初に出会うのは、銀色の巨大な塊が駐車場に突っ込んでいるというもの。ライアン・ガンダーという人気アーティストの《編集は高くつくので》という作品だ。19

    ⑦ 異物を街に残すために|迷い線のあいだに|藪前 知子|webちくま
  • 最終回 パンデミックとアメリカ音楽|アメリカ音楽の新しい地図|大和田 俊之|webちくま(1/3)

    トランプ後のアメリカ音楽はいかなる変貌を遂げるのか――。激変するアメリカ音楽の最新事情を追い、21世紀の文化政治の新たな地図を描き出す! 2020年、COVID-19(coronavirus disease 2019)と名付けられた感染症が世界を席巻した。アメリカでは3月に入ってから症例数が急増し、多くの州で緊急事態宣言が発せられた。一日あたりの感染者数も4月中旬の3万人台を第一波のピークに6月には2万人前後にまで減少したものの、7月下旬に7万人近くまで増加すると秋口に微減したのちに11月以降さらに急増し、2021年1月には1日の感染者数が30万人に到達した。もちろん、検査数が一定ではないので感染者数のみを比較してもあまり意味はないが、新型コロナウィルス感染症によるアメリカ合衆国の死者は2021年2月7日の時点で46万人を超えており、このパンデミックの被害をもっとも大きく受けた国のひとつ

    最終回 パンデミックとアメリカ音楽|アメリカ音楽の新しい地図|大和田 俊之|webちくま(1/3)
  • 家族の記憶と折り合う介護|ちくま新書|細馬 宏通|webちくま

    6月刊ちくま新書『マンガ認知症』(ニコ・ニコルソン/佐藤眞一)に、人間行動学者の細馬宏通さんが書評を寄せてくださいました。マンガからにじみだす描き手のニコさんと認知症の祖母、介護する母の関係性のあたたかさを、しみじみと感じます。(PR誌「ちくま」2020年7月号より転載) 近しい認知症の人の介護はなぜ難しいのか。たとえば、それまでなごやかに話していた母が、ほんの小さなきっかけで鬼の形相になる。怒りが剥き出しで全身に現れる。母に面と向かってこの表情をされるとたまらない。小さかった頃、ときどきこの顔で激昂されたことがさっと蘇ってきてしまう。こちらも、自分でもびっくりするほど感情が高ぶってしまって、気づくと「なんで怒るの⁈」と言い返している。思わず声を荒げてしまったことに気づいてようやく、お茶をいれにいくふりをしてその場から離れるが、心はざわついたままだ。 認知症の家族を在宅介護するときにわたし

    家族の記憶と折り合う介護|ちくま新書|細馬 宏通|webちくま
  • 第33回:静かなる文化大革命の日本を生きる。一億総阿Q化と「橋下徹=子ブッシュ」説|悪いキツネをおさえつけることはできない|丸屋 九兵衛|webちくま

    オタク的カテゴリーから学術的分野までカバーする才人にして怪人・丸屋九兵衛が、日々流れる世界中のニュースから注目トピックを取り上げ、独自の切り口で解説。人種問題から宗教、音楽歴史学までジャンルの境界をなぎ倒し、多様化する世界を読むための補助線を引くのだ。 わたしは香港映画が好きだ。よって、我が家のBlu-ray/DVD棚ではショウ・ブラザーズやゴールデン・ハーヴェストの勢いが強い。 その中の一つに、1972年の『水滸伝』がある。もちろん現地タイトルは繁体の『水滸傳』。英題は例によって混乱しており、The Water MarginだったりOutlaws of the Marshだったり、時にはSeven Blows Of The Dragonだったりする……そんな作品だ。 水滸伝なので登場人物たちの把握が大変だが、この映画で扱われているパートに関して主人公にあたるのは燕青と盧俊義。燕青を演じ

    第33回:静かなる文化大革命の日本を生きる。一億総阿Q化と「橋下徹=子ブッシュ」説|悪いキツネをおさえつけることはできない|丸屋 九兵衛|webちくま
  • 予言について①|重箱の隅から|金井 美恵子|webちくま

    7月の下旬だったか、新聞で『ノストラダムスの大予言』で知られた五島勉氏(90歳)の死が報じられているのを見て、大予言シリーズの累計が600万部以上のベストセラーだったことを、昭和史の一コマとして振り返って考える、という類の新聞記事を切り抜いてあったのを思い出したのだった。もちろん、一種の違和感を感じたからである。 「昭和史再訪」というシリーズ記事(朝日新聞ʼ13〔平成25〕年12月14日)は、昭和48(1973)年に上梓された『ノストラダムスの大予言』が、折からの「終末ブーム」を背景に大ベストセラーになった当時のことを紹介しているのだが、記事中の「証言」というコラム仕立てのコーナーの「ノストラダムス研究室主宰の田窪勇人さん(49)」の発言への違和感が、この記事を切り抜いておいた理由だ。 16世紀フランスの医師で占星術師でもあったノストラダムスについて、「原書を取り寄せ翻訳をしましたが、つづ

    予言について①|重箱の隅から|金井 美恵子|webちくま
  • 予言について②|重箱の隅から|金井 美恵子|webちくま

    世紀末の社会が抱えていた問題を解決できないまま、「さらに余裕をなくした社会に」生きているの「だからこそ「物語」が復権する予感もある」と若い作家は語っていたのだが、復権、、というかなんというか、物語を必要としているさまざまな場所(メディア)(むろん、いわゆるフィクションの場だけではなく)では、不安、、をもとにいつでも小規模な誇大妄想の物語はいくつも作られ語られるのだし、前世紀が世紀末にさしかかろうとしていた1984年、ジョージ・オーウェルの『一九八四年』(1949年)の描いた暗黒の未来は当たっていたかどうかと取り沙汰されたものだったが、これは予言ではなく書かれた当時の独裁社会の現実だったのだし、トリュフォーが映画化したレイ・ブラッドベリの『華氏451度』の「」を所有し、読むことが罪に問われ、が燃やされる未来社会については、焚書などという手間を掛けずとも自発的にを読まない、、、、、、、、

    予言について②|重箱の隅から|金井 美恵子|webちくま
  • 琉球新報「ファクトチェック」報道編③ 沖縄で新聞記者になるということ|地方メディアの逆襲|松本 創|webちくま(1/3)

    地方にいるからこそ、見えてくるものがある。東京に集中する大手メディアには見過ごされがちな、それぞれの問題を丹念に取材する地方紙、地方テレビ局。彼らはどのような信念と視点を持ってニュースを追いかけるのか? 報道の現場と人を各地に訪ね歩く「地方メディアの逆襲」。先の沖縄県知事選挙を機に「ファクトチェック・フェイク監視」を始めた琉球新報に迫ります。 県外出身記者たちの葛藤と責務 今年2月に刊行された『沖縄で新聞記者になる』(畑仲哲雄著、ボーダーインク刊)というがある。元新聞記者で、現在は地域ジャーナリズムの研究者である著者が、琉球新報と沖縄タイムスの土出身記者約20人に取材し、〈沖縄人ではない者が、沖縄で新聞記者になるとはどういうことなのか〉を深く考察している。 同書によれば、両紙とも土出身記者の割合は約2割。ともに戦後まもなく創刊(復刊)し、発行部数も拮抗する両紙は、互いに強烈なライバル

    琉球新報「ファクトチェック」報道編③ 沖縄で新聞記者になるということ|地方メディアの逆襲|松本 創|webちくま(1/3)
  • 琉球新報「ファクトチェック」報道編① フェイクに蹂躙される沖縄|地方メディアの逆襲|松本 創|webちくま(1/3)

    地方にいるからこそ、見えてくるものがある。東京に集中する大手メディアには見過ごされがちな、それぞれの問題を丹念に取材する地方紙、地方テレビ局。彼らはどのような信念と視点を持ってニュースを追いかけるのか? 報道の現場と人を各地に訪ね歩く「地方メディアの逆襲」。先の沖縄県知事選挙を機に「ファクトチェック・フェイク監視」を始めた琉球新報に迫ります。 「ポスト・トゥルース(脱真実)」という言葉が欧米発で流行したのが2016年。「フェイクニュース」「オルタナティブ・ファクト」などの言葉も定着して久しく、これに対する「ファクトチェック(事実検証)」の取り組みも、各国のメディアや専門サイトで進んでいる。 日の地方メディアで、いち早く取り組んだのは沖縄の琉球新報だ。戦後75年間、望まぬ米軍基地を押し付けられ、危険と不安にさらされ続ける沖縄には、何十年も前から土発の「基地神話」がまとわりついてきた。それ

    琉球新報「ファクトチェック」報道編① フェイクに蹂躙される沖縄|地方メディアの逆襲|松本 創|webちくま(1/3)
  • 琉球新報「ファクトチェック」報道編② 「覆面の発信者」を追う記者たち|地方メディアの逆襲|松本 創|webちくま(1/3)

    地方にいるからこそ、見えてくるものがある。東京に集中する大手メディアには見過ごされがちな、それぞれの問題を丹念に取材する地方紙、地方テレビ局。彼らはどのような信念と視点を持ってニュースを追いかけるのか? 報道の現場と人を各地に訪ね歩く「地方メディアの逆襲」。先の沖縄県知事選挙を機に「ファクトチェック・フェイク監視」を始めた琉球新報に迫ります。 県知事選ファクトチェック報道の舞台裏 〈虚構のダブルスコア/「偽」世論調査〉──。沖縄県知事選告示5日前の2018年9月8日、琉球新報が掲載した「ファクトチェック・フェイク監視」の最初の記事である。こんな内容だった。 県知事選を巡る世論調査の情報が飛び交っている。一方の立候補予定者(玉城デニー)への支持が、もう一方(佐喜眞淳)をダブルスコアで上回る「朝日新聞の調査」とされる数字のほか、国民民主党など複数の政党の調査でも大差がついているとの情報がある。

    琉球新報「ファクトチェック」報道編② 「覆面の発信者」を追う記者たち|地方メディアの逆襲|松本 創|webちくま(1/3)
  • 医者の言葉、小説家(と批評家)の言葉①|重箱の隅から|金井 美恵子|webちくま

    原因と言えば、原稿を書きながら必要なを探すこと、とも言える。書架が上段と下段にわかれているスライド式棚の下段の奥を探し、頭を持ちあげた瞬間、棚板の下にかなり強くぶつけてしまったのだ。 を探していて棚の上のほうから落ちてきたの角で鼻の頭に小さな傷を作ったり、足の指を痛めたり、スライドする書棚と書棚の間に手をはさんだり、という、いかにも運動神経の鈍い者が負いそうなケガとは言えないちょっとした痛みは、大した分量ではないのに整理されていないを探すたびに年中経験することなのだが、確かにあの時の痛みはおさまるのにいつもより時間がかかり、2カ月後に右半身に軽い痺れが断続的におき、MRIとCTスキャンの検査をして慢性硬膜下血腫という診断を受け、3月のはじめまで通院することになったのだった。 慢性硬膜下血腫は、高齢の男性に多い疾患で、転倒で頭部をぶつける「軽微な頭部外傷」が原因、「歩行障害」や「認

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  • 「ていねいな暮らし」の戦時下起源と「女文字」の男たち|「ていねいな暮らし」の戦時下起源と「女文字」の男たち|大塚 英志|webちくま(1/4)

    5月4日、厚生労働省が新型コロナウィルスを想定した「新しい生活様式」を公表しました。感染対策のために、「手洗いや消毒」「咳エチケットの徹底」といった対策を日常生活に取り入れることだけでなく、会話や事、働き方など様々な領域における行動について指針を示しています。 この「新しい生活様式」という言葉から、戦時下に提唱された「新生活体制」を想起するという大塚英志さんに、エッセイを寄せていただきました。 テレビの向こう側で滔々と説かれるコロナ下の「新しい生活様式」なる語の響きにどうにも不快な既視感がある。それは政治が人々の生活や日常という私権に介入することの不快さだけではない。近衛新体制で提唱された「新生活体制」を想起させるからだ。 かつて日が戦時下、近衛文麿が大政翼賛会を組織し、第二次近衛内閣で「新体制運動」を開始。その「新体制」は、経済、産業のみならず、教育文化、そして何より「日常」に及ん

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  • 喜田貞吉──頑固者の賤民研究 |ちくま学芸文庫|塩見 鮮一郎|webちくま

    被差別民・被差別部落の歴史をテーマにした小説、評論を数多く発表している作家・塩見鮮一郎氏が、『賤民とは何か』(喜田貞吉著)についての解説をお寄せ下さいました。書の著者・喜田貞吉についても『蘇る巨人 喜田貞吉と部落問題』(河出書房新社)という著作を発表されています。わが国の先史、古代史、民俗学、部落問題など多岐に亘る分野で先駆的業績を残した独自な学者・喜田。彼の学問的核心、賤民の研究とは? 1 人となり どれほどの人が知っているのか。いかほどの人が関心を寄せられておるのか。それがは っきりとしないので、かれについて書くのがむずかしくなる。柳田国男(やなぎた・くにお)についてなら、もう『遠野物語』の、あるいは『海上の道』などの著者で、さらに、民俗学を近代に根づかせ、独創の「常民(じょうみん)」という概念をひろめた、となる。しかし、同時代を並走したかれ、喜田貞吉(きた・さだきち)にはそういうも

    喜田貞吉──頑固者の賤民研究 |ちくま学芸文庫|塩見 鮮一郎|webちくま
  • 私の花|海をあげる|上間 陽子|webちくま(1/3)

  • 空を駆ける|海をあげる|上間 陽子|webちくま(1/4)

    祖母は84歳のときに、膝に人工骨を入れる手術をした。50代後半から膝がひどく痛み出し、痛み止めの注射を毎週のように打ち続けていた祖母の膝は軋みをあげて、祖母はすり足でしか歩けない。 祖父をおくったあと、生活するには不自由がないと祖母は思っていたようだが、叔母のひとりが、「一緒に旅行に行くためにも膝の手術を受けよう」と熱心に祖母を説得し、祖母はしぶしぶ承諾した。 「80代になっての全身麻酔って大丈夫なの?」と母に聞くと、「確かにそうなんだけど、悪くない話のように思える」と母はそう話していた。 「84歳にもなるとリハビリが大変だと医者は言うけど、おばあちゃんは根気強いから大丈夫だと思う。それに手術を受ける病院はうちの近くだから、毎日みんなで見に行ける。ただ、ちょっと心配なのは、人工骨は20年しか持たないっていう話なの。でも、104歳までおばあちゃんが元気かなぁと思ったら、それはないかなぁって思

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  • 手と手と手|海をあげる|上間 陽子|webちくま(1/3)

    2月からずっと体調が悪かった。 1月末に、千葉県で沖縄の女の子が虐待を受けて亡くなった。沖縄にいるときから、その子の母親は自分が夫に殴られていることや、娘が夫に怒鳴られていることを病院や市役所に訴え、その子の祖母もまた、娘と孫娘が暴力を受けていることを学校や市役所に訴えていた。それでも、母親や祖母の訴えを聞いたひとはだれひとり動かず、沖縄から遠く離れたその場所で、寒い冬の日、女の子は自分の父親に殺された。 あの子がどうやって死んでいったのかがわかってからは、小さな子どもと女の人が泣いている夢を見て、真夜中なのに目が覚めた。目が覚めると世界が壊れてしまうような気分になって、なんとかもう一度眠ろうとするけれど、やっぱり眠ることはできなかった。仕方がなくて灯りをつけて仕事をはじめるけれど、ただ目の前のテキストの文字を追っているだけのことも多かった。 眠れなくなると娘に苛立つようになった。自分のや

    手と手と手|海をあげる|上間 陽子|webちくま(1/3)
  • あたしにはもうなにも響かない|海をあげる|上間 陽子|webちくま(1/4)

    七海が泣いている。夜の病院の明かりの消えた救急の待合室で、今日の夕方に起こった出来事を話していて。 入院して4日目の夜、メールのやりとりをしていたら、七海がもう千切れそうになっているのがわかった。 もうどうでもいいです死にたいです。 ――顔みて話したいからそこに行きたいんだけど。 ――病棟は家族以外は入ることができない時間だから、救急のところまで降りてこられる? とりあえず服だけ着替えて、家を出る。 * 2017年に始めた若年出産女性調査で、私は七海と知り合った。七海は家出を繰り返しながら大きくなった17歳の若い母親だった。 七海は小学生のころからずっと父親から性暴力をうけていた。七海はいまもまだ、灯りを落とした柔らかい布団の上ではうまく眠ることができない。 「こんなに眠れないの、昔のこととか関係あると思う? 」と尋ねてみると、「あると思います」と七海は言った。「病院、行ってみる? 」と私

    あたしにはもうなにも響かない|海をあげる|上間 陽子|webちくま(1/4)