吉良貴之〔きらたかゆき〕氏が語り始めた。 「トロッコ問題」について聞き及んだ人はどれくらいいるだろうか 新装なった高知市図書館「オーテピア」、最上階プラネタリウム横会場での、寒風に澄〔す〕んだ師走〔しわす〕ひと日の夕刻であった。「高知サイエンスカフェ」の講師は、東京の若き法哲学者である。 炭鉱の採掘現場でブレーキが壊れて暴走するトロッコが、線路の先の5人の鉱夫に向かっている。切り替え路線の向こうでは別な1人が線路上で作業中である。たまたま路線切替機の隣にいたあなたは、そのまま5人が轢〔ひ〕かれ死ぬのを見過ごすか、レバーを引き路線を切替えて、本来無関係な1人の死を引き起こすかの選択を迫られている。あなたはどうするのか? レバーを引く引かないで6対4ほどに別れた聴衆との、丁寧な対話に入った吉良氏から、「功利〔こうり〕主義」や「カント主義」といった倫理学用語が発せられ、議論は熱を帯びてきた。意見