むかしむかし、心理学の本をつくっていたときのこと。 人間はどうしても、おのれと他者とを比べてしまう。「人と自分を比べていないで、自分らしく生きなさい」というお説教のことばが正しいことは知りながら、やっぱりどこか比べてしまう。そしておのれと他者とを引き比べるにあたって、そこにはおおきく「上方比較」と「下方比較」というふたつの傾向があるのだと心理学者の方に教えていただいた。 上方比較とは、自分よりも(さまざまな意味で)上にいる人を見て「すげえなあ、おれもあんなになりたいなあ」と焦がれる状態を指す。一方の下方比較とは、自分よりも下にいる人を見て「あいつらに比べれば、おれもマシだよな」と安心し、自尊心を高める状態を指す。ぼくの記憶によると、途上国の人びとは全般的に下方比較を好む傾向があり、それゆえ上昇志向につながらず、経済的停滞を招いてしまう、という研究もなされていたはずだ。 と、こうやってふたつ