ほとんど都市伝説のような、けれどもたぶんほんとうにあった話だ。 昭和の時代、ドラマや映画や小説のなかでしばしば「ファンレターのなかにカミソリの刃が入っている」という描写があった。なにも知らずに開封したアイドルや俳優さんがそれで怪我をするところまでが、セットで描かれていた。任侠映画や社会派映画だとここに、銃弾が入っていたりする。銃弾そのものに危険はない。相手を直接傷つけるためではなく、恫喝するために送っているわけだ。 おのれの顔面に鬚が生える日のことなど思いもよらず、カミソリの刃という道具に馴染みのなかった子ども時代のぼくは、あのファンレターにまぎれ込んだカミソリの刃が、とても怖かった。ぴゃっ、と線を引くように指を切る描写が、そこからどくどくと流れ出る血の描写が、このうえなく怖かった。そして実際に指を切らなかったとしても、カミソリ入りの封書を受けとることは恐怖以外の何者でもなかっただろう。た
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