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ブックマーク / kasasora.hatenablog.com (3)

  • 偽物の期限 - 傘をひらいて、空を

    疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。僕が恋人でない女と暮らしはじめたのはそのせいである。 僕には去年の年末までつきあっていた人がいた。美しい人だった。意思が強く計画的で、人生に求めるものが明確な女性だった。彼女は十代のころから、堅実に働きしっかりとした家庭を持つと決めていた。資格の取れる大学に行き景気に左右されない職に就いて、楽しいだとかおもしろいだとか、そういうことは抜きにして、彼女の思う正しさをそなえた仕事をしはじめた。僕と彼女が出会ったのはそのころのことだ。 僕もまた堅実な人生を歩んでいた。だから彼女は僕を選んだ。僕も彼女のような人と家庭を持ちたいと思った。でも僕は彼女ほどに意思が強くなく、堅実な路線で生きてきたのはただ単に「そういうものだ」と思っていたからだ。学生時代の終わりからじわじわと「自分はそういうタイプではないのかもしれない」と思っていたけ

    偽物の期限 - 傘をひらいて、空を
  • セフレですよ、不倫ですよ、ねえ、最低でしょ - 傘をひらいて、空を

    仕事の都合で別の業種の女性と幾度か会った。弊社の人間が、と彼女は言った。弊社の人間が幾人かマキノさんをお呼びしたいというので、飲み会にいらしてください。 私は出かけていった。私は知らない人にかこまれるのが嫌いではない。知らない人は意味のわからないことをするのでその意味を考えると少し楽しいし、「世の中にはいろいろな人がいる」と思うとなんだか安心する。たいていはその場かぎりだから気も楽だし。 彼らは声と身振りが大きく、話しぶりが流暢で、たいそう親しい者同士みたいな雰囲気を醸し出していた。私を連れてきた女性はあっというまにその場にすっぽりはまりこんだ。私は感心した。彼女は私とふたりのときには同僚たちに対していささかの冷淡さを感じさせる話しかたをしていた。 どちらがほんとうということもあるまい。さっとなじんで、ぱっと出る。そういうことができるのである。人に向ける顔にバリエーションがあるのだ。私は自

    セフレですよ、不倫ですよ、ねえ、最低でしょ - 傘をひらいて、空を
    yuki_2021
    yuki_2021 2019/09/18
    心理描写がうまいな / こういう連中とは関わらない人生を送りたい
  • 作文が終わらない - 傘をひらいて、空を

    七つの女の子と話をしていたら、作文が終わらなくて困っているという。彼女は小さい子にしては要領よくしゃべるんだけれども、なにしろ七歳は七歳なので、話がくどい。しかもしょっちゅう脱線する。最後まで聞いて推測するに、どうやら何を書いて何を省くかがわからないので作文が長くなっている、ということらしかった。 学校の授業の作文で七五三の話を書くことにして、けれども原稿用紙六枚書いてもまだ、当日の朝ごはんが終わらない。メニューとその匂い、湯気のようす、パンの焼き加減の好みに関する主張で六枚目が終わってしまった。今までのぶんを捨てて書き直すべきか、という意味のことを、彼女は言う。読ませて頂戴と言うと、ずいぶんとはずかしがってから、結局読ませてくれた。 八枚切りのパンを焦げるぎりぎりのところまで熱してからバターを塗り、しみこませてべる、ジャムはパンに塗るべきではない、ヨーグルトにいっぱい入れたほうがいい、

    作文が終わらない - 傘をひらいて、空を
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