今日も復一はようやく変色し始めた仔魚(しぎょ)を一匹(ぴき)二匹(ひき)と皿(さら)に掬(すく)い上げ、熱心に拡大鏡で眺(なが)めていたが、今年もまた失敗か――今年もまた望み通りの金魚はついに出来そうもない。そう呟(つぶや)いて復一は皿と拡大鏡とを縁側(えんがわ)に抛(ほう)り出し、無表情のまま仰向(あおむ)けにどたりとねた。 縁から見るこの谷窪(たにくぼ)の新緑は今が盛(さか)りだった。木の葉ともいえない華(はな)やかさで、梢(こずえ)は新緑を基調とした紅茶系統からやや紫(むらさき)がかった若葉の五色の染め分けを振(ふ)り捌(さば)いている。それが風に揺(ゆ)らぐと、反射で滑(なめ)らかな崖(がけ)の赤土の表面が金屏風(きんびょうぶ)のように閃(ひらめ)く。五六丈(じょう)も高い崖の傾斜(けいしゃ)のところどころに霧島(きりしま)つつじが咲(さ)いている。 崖の根を固めている一帯の竹藪(