「すべてがスローモーションに見えました」 「まさかまさかの末脚。私たち歴史を目撃しちゃったんですよ」 「ドラマだわー、人生だわー」 「いやぁ、まさかまさかの末脚。伝説だわー」 すっかり競馬ファンにはお馴染みになった台詞。今秋、JRAの「CLUB KEIBA」シリーズの一つとして放映されたCMで、競馬場で観戦を終えた蒼井優が、帰りの通路、電車、バー、夜が明けた部屋でもレースの興奮をひとり、語り続けるというものだ。制作側の意図はさておき、個人的には実に思わせぶりなストーリーだなと感じてCMを観ていた。今、私たちはポストモダンの時代、リオタールに寄り添えば「大きな物語の終焉」、つまり万人を納得させる価値観、イデオロギーのない世界に生きている。東浩紀は大きな物語が失調したポストモダンをサブカルチャーを読み解くことで論じたが、その分析は現在の競馬文化にはどう当て嵌めることができるだろう。ファンは失っ