大学を卒業したら、勝手に「大人」になっているものだと思い込んでいた。 私の家は共働きで、父も母もいつも働いていた。小学生の頃から、私はいわゆる「鍵っ子」だった。親が家にいないのは当たり前だったし、クラスメイトが家族でキャンプやディズニーランドや、長期旅行でハワイに行った、なんて話もいつもどこか他人事のようにきいていた。私の家では父も母もふたりとも休みということ自体がほとんどなかったからだ。家族揃ってどこかに出かけるのは一年に一回あればいい方だったが、別にそのこと自体を寂しいとも思っていなかった。両親が家にいないことが私にとっての常識だったのだ。 父はタクシーの運転手だった。タクシーの運転手という仕事は不規則な生活を余儀なくされる。父は丸一日早朝から深夜までぶっ続けで働いて、その次の日に丸一日休む、というサイクルを保っていた。働く日は思いっきり働き、休む日は働く日のために思いっきり休むという