議論をしていて、「あれ?」と感じることはないだろうか。 たとえば「A説があるから、B説は間違いだ」と主張する人がいる。ところが、A説のどのような点がB説よりも優れているのか説明しようとしないし、そもそもA説とB説が同時に成立する可能性も検証しない。B説の存在だけで、A説を否定できると思い込んでいる。1つの問題には1つの解答しかありえないと信じている人がいるのだ。 当然ながら、問題と解答がいつでも1:1で対応するとは限らない。しかし、私たちの脳には「唯一の答え」を追求しようとする傾向があるらしい。 これは日常的な議論に限らない。飛び抜けて頭がいいはずの科学者たちも、しばしば同じような論理学上の間違いを犯す。たとえば「ある生物がその特徴を持つのはなぜか?」という疑問を考えてみよう。なぜ鳥は飛ぶのか。なぜ哺乳類は子供に母乳を与えるのか。これらの疑問に「唯一の答え」はない。動物学者ニコラス・ティン