葛飾北斎のスケッチ集「北斎漫画」にある「鰻(うなぎ)登り」は、3尾の巨大な鰻が鰻屋のまな板から職人の手をすり抜けて、天に昇っていく様子を描いたものだ。幕府の経済政策の失敗による物価の高騰を暗に批判している、との説もある。 ▼ただ江戸研究家の杉浦日向子さんは生前、当時の蒲(かば)焼きはもともと高価なごちそうだった、と語っていた。大工の日当が400文から600文だったのに対して、1人前が200文以上もしたそうだ。なにしろ、客の顔を見てから鰻を吟味し、割いて焼くから手間暇かかる。 ▼客の方は酒を飲んだり、男性なら女性を口説いたりして、待ち時間を楽しんだという。たまには江戸の人々のように、オツな時間を過ごしてみたいものだが、蒲焼きはますます庶民の口に入りにくいものになっている。 ▼昨今の価格高騰は、養殖に欠かせない稚魚(シラスウナギ)が東アジアで3年連続の不漁となっているのが原因だ。平成16年に1