競馬の馬券市場においては,「本命–大穴バイアス(favorite–longshot bias)」という良く知られた現象がある.これは当たる確率が極めて低い大穴馬券への過剰な人気を指すものだ.このバイアスは,微小確率の過大評価傾向としてプロスペクト理論から説明できる.本論文では,近年の日本の馬券市場に特徴的な三連単馬券に関して検証を行い,より大穴な馬券ほど過剰に人気が集まる傾向にあるという大穴バイアスの存在が確認された.この結果は従来の研究と異なり,外れ馬券を含めた全ての馬券データを網羅的に分析し,投票行動の推計ではなく実際の得票数を用いた分析である点で,質的に新しい結果といえる.本研究は,微小確率に対する経済主体の実際の行動結果を表すデータを用いた分析であり,行動バイアスの実証分析として大規模なデータを用いた研究となることで,行動経済学の幅広い領域での実証研究の可能性について示唆を与える.