加藤博義氏が「現代の名工」に選ばれた。日産自動車のテストドライバーである。厚生労働省から「それぞれの職業部門において、卓越した現役の技能者であり、広く技能者の模範」というお墨つきをもらったことになる。加藤さんおめでとう。以下、文中の敬称は略します。 厚労省が認めたのは加藤の運転の技能である。しかし彼は「フェアレディZ」の開発で、それ以上の役割を果たしてきた。 2001年冬、栃木のテストコースにいた加藤は厚木(神奈川県)の設計にいる水野和敏を呼びつけた。水野はZの車両開発主管。直属ではないが、Zの仕事に関しては加藤の上司である。強烈な個性でZの開発を引っ張ってきた。周囲が震え上がる頑固親父でもある。 ▼操縦安定性、全然ダメ それでも加藤に遠慮はない。やってきた水野に言い放った。「親父っさん、だめだよ。そこら中に無駄な動きがある。ハンドルを切った瞬間に気持ち良くないし、エンジンの回り方