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ファンタジーに関するoukastudioのブックマーク (152)

  • つばさ - *

    気分を変えたかった。 そこでバルコニーへ出て仕事を執り行おうとしたのだが、これは完全に裏目に出てしまった。 あまりにも天気がよすぎる。 抜けるような青い空と風に揺れる緑豊かな木々を見ていると、自分はなぜこんなにもくだらない執務にとらわれているのかと、さらに憂な気分にさせられる。 「また愚痴が出そうですな」 「先手を打たないでくれ」 他人事のようにオトマルが笑っている。もっとも仕事の量だけを比べれば、彼のほうが多いくらいなのだが。 「そんなに気分転換したいのなら、例の弓兵隊の訓練でもご視察なさいますか」 フェリクスの瞳がぎらりと輝いた。 「どこでやってるんだ? どこまで進んでいる?」 「西の平原です。新しく徴兵した分も|交(ま)ざっているのでまだまだですが、それなりの形は出来上がりつつあります」 「|訓練の交代制|(、、)を導入したんだったな」 「一般の兵士たちは、普段それぞれ自分の仕事

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    oukastudio 2013/02/18
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  • つばさ - *

    人はなぜ争うのか、と問うたところで実際に争っている現場では無意味だ。 翼人と人間はなぜ対立するのか、と問うたところで答えが出るはずもない。 なぜなら〝翼人〟と〝人間〟という形に分けて考えること自体、対立と闘争の前提となっているからだ。それぞれ違うといえば違うのだから、区別はわきまえる必要がある。 だが常に、区別は差別へと転化しやすい。互いの違いをわきまえつつ、互いを認め合うことができるような人物は、翼人にも人間にもほとんどいなかった。 すなわち、この世界における差別と闘争とは必然なのだ。 それをなくすにはどうしたらいいのかだって? 方法は二つある。 それぞれがより高度な次元へ己の精神を高めるか、もしくはすべてが滅び去るか――。何もなければ、そこになんらかの問題があるはずもない。 あらゆる存在の無は、あらゆる問題、あらゆる限界の無をも意味する。 「しかし、それはあらゆる幸福、あらゆる喜びの無

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    oukastudio 2013/02/17
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  • つばさ - >

    「ベアトリーチェたちはどうしてる?」 「さっきの場所で待って――ああ、いたいた」 前方の木の陰に、二人の姿が見えた。所在なく歩き回っていたようだが、こちらに気づくとぱっと顔を輝かせた。 「ベアトリーチェ、リゼロッテはどうだ?」 「ええ、今は落ち着いてるけど。それより、ヴァイク――」 右の翼のひどい傷を目にして、ベアトリーチェがはっと息を呑んだ。 「すまない、うちの村人が誤って撃ってしまったみたいなんだ」 「あのセヴェルスとかいう野郎がな」 「ええ!? や、やったのはセヴェルスだったのか……」 ヴァイクとしては、あの弓使いへの当てつけを言っただけだったのだが、ジャンは自分が重大なあやまちでも仕出かしてしまったかのように落ち込んだ。 「誰がやったかより、すぐに治療しないと――ああ、でも傷薬がない」 自身の旅用の|袋(ザック)をあさっていたベアトリーチェだったが、首を横に振った。 解熱用の軟膏は

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    oukastudio 2013/02/15
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  • つばさ - >

    緊急事態に似つかわしくない気持ちのいいくらいに澄んだ青空の下、全速力で北西の方角へ向かう。 ――状況が状況だが、やっと飛べるな。 もう人目を気にする必要も、あの連中に見つかることを避ける必要もない。久しぶりに思いきり宙を舞うことができる。 さすがに先ほどの翼人たちの姿はまるで見えないが、あの男の村の位置はすぐにわかった。 ――火の手が上がってるじゃないか。 前方に、煙の柱が風で西方向へたなびいているのがわかる。 しかも複数。まだ遠くてはっきりとはわからないが、家屋のいくつかが燃えているようだった。 風にのって近づいていくと、村の上空に何人かの翼人の姿も見えてきた。 翼の色がそれぞれ違う。 ――やはり、例の連中か。 ある程度、村まで接近したところで、速度を急激に落とした。今のところ相手には悟られていない。現在どんな状況なのかを、まずは確認したかった。 ちょうど村のやや近くに三の|檜(ひのき

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    oukastudio 2013/02/14
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  • つばさ - 第三章 再会

    春とは思えぬ強い日差しが射す中を、ひとりの翼人とふたりの人間がともに北へ向かって歩いていた。 今は、街道を少し離れた森の中にいる。さすがにこの辺りまで来ると、街道を頻繁に人々が通り過ぎていくようになる。翼人が人間に見つかると騒ぎになるので、あえて道から外れたところを進んでいた。 旅慣れておらず、ましてや道なき道をゆく経験などまるでないベアトリーチェにとっては非情に厳しい道程だ。木の根に足を引っかけ、鋭い枝に服を破られ、脆い足場に倒れそうになる。それでも、音を上げることは一切せずに歩きつづけていることは立派だった。 しかし、リゼロッテだけは違った。 明らかに様子がおかしい。うつむき加減で歩くことが多く、少し動いただけで息が上がってしまう。 ジェイドが不足している。 だから、体が弱っていく。 ――リゼロッテ。 ヴァイクは、できることなら抱えて運んでやりたかった。大変なのは事実だが、ベアトリーチ

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    oukastudio 2013/02/12
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  • つばさ - *

    つ、疲れる…… フェリクスはこころの中で何度も何度もため息をついた。 自分が今回の夜会の主催者なのだから仕方がないとはいえ、次から次へとあいさつに訪れる客人の応対をするのは尋常ではないほどの苦労があった。 中でも他の七選帝侯の連中はいろいろな探りを入れてきたり、あからさまな嫌みを言ってきたりする。 気を使うやら、腹立たしいやらでフェリクスは逃げ出したい衝動を抑えるのに必死だった。 ――それにしても。 と思う。 他の地域が、これほどまでに疲弊しているとは正直思わなかった。正常な状態にあるところはもはやないといっていい。 諸侯だけでなくその付き人らにも探りを入れてみたが、状況は想像するよりも遥かに深刻であった。 それなのに、ひとつの地域だけがうまくいっている。さらに、次期皇帝を決める選帝会議の時期が重なってしまったのだから、他の諸侯がぴりぴりするのも無理はなかった。 これからどうしたものかと思

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    oukastudio 2013/02/11
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  • つばさ - *

    後ろ姿が人混みに消えて見えなくなってから、アーデはのほほんとしている長身の男をキッと睨みつけた。 「なんで邪魔をしたの、ユーグ!」 「これはおひどい。アイトルフ侯が当にずっと捜しておられたので、それを伝えにきただけなのですが」 「あの男はアルスフェルトの件をくわしく知っていたのよ! もっと情報を引き出せたかもしれないのに」 「姫」 ユーグの口調が変わる。 「ヴェルンハルト殿下に向かって〝あの男〟とは何ごとですか。口を慎んでください」 「だって……」 ユーグの言い分は正しい。腹立たしいが今のところ反論のしようがなかった。 「まあ、いいわ。ところでユーグ、アルスフェルトを襲った翼人についていろいろとわかったわよ」 「ええ、聞いておりました」 「は?」 「ほとんど最初からお二方の後ろにおりましたので」 アーデはかちんと来た。 「だったら、どうしてもう少し話をさせなかったのよ!」 「立ち聞きして

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    oukastudio 2013/02/09
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  • つばさ - *

    バルコニーで受ける夜の風は冷たく、酒で少し火照った体には心地よかった。後ろの広間では、未だに夜会が行われている。 ――みんな元気ね。 アーデルハイトは盛大にため息をつくと、手に持っていた銀杯を精巧な彫刻の施された欄干の上に置いた。 どうにも、こうした場の空気には馴染めない。 ノイシュタット侯の妹として立場上逃げるわけにもいかず、付き合いで出てはいるが、いつもこうして周りの注意がそれた時機を見計らっては、人気の少ないところへ逃げ込んでいた。 ――お兄様は大変ね。 兄フェリクスは、このノルトファリア帝国を治める各地の諸侯をみずから接待していた。きっと、自分とは比較にならないくらいに気苦労が多いことだろう。 この国の有力者は、よくこうして持ち回りで夜会を開く。招いたほうは最大限のもてなしをしなければならず、招かれたほうもよほどの事情がないかぎり、かならず出席しなければならない。 ――無駄なことを

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    oukastudio 2013/02/07
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  • つばさ - *

    今日は、何か空気がおかしい。 空は晴れ渡っているのだが、雰囲気がどんよりと重い気がする。それというのも、ヴァイクとリゼロッテの様子が、あの夜以来おかしいせいだった。 ヴァイクは、何か考え事をいしているかのように黙っていることが多くなった。 リゼロッテのほうは、あまり彼に近づかなくなった。体調はまだすぐれず、さらには疲れがたまってきたせいでその足取りは重い。 ――ふぅ。 そんな二人に挟まれていると、自分まで暗い気持ちになってくる。ベアトリーチェは彼らに悟られないように、そっとため息をついた。 何か、この青い空がもったなく思える。せめて曇天だったら、自分たちの気持ちにしっくりとくるのに。 理不尽にすぎない思いを込めて空を見上げていると、鳥の集団か何かが隊列を組んで飛んでいくのが見えた。 そこから一羽が離れて、こちらのほうに降りてくる。 ――なんだろう? と思っている間に、それが一気に急降下して

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    oukastudio 2013/02/06
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  • つばさ - *

    風が後方へすっ飛んでいく。 自分たちのこころを表すかのように澄み渡った空は、笑ってしまうほどに青く抜けていた。 完全な快晴。 前方を遮るものは何もなく、この世界のすべての支配者になったかのごとく気分がいい。 〝狩り〟は今日も順調だった。相手は三部族の精鋭を集めたつもりのようだったが、どうということもない。 自分たちにとっては雑魚と変わりなく、正直少し物足りないくらいだった。 「アセルスタン、やっぱりお前は強いな」 「世辞はよせ。そんなものは、なんの役にも立たん」 後方を飛ぶ男が親しげに、しかしどこか卑屈に声をかけてくるものの、赤い髪のアセルスタンは一顧だにしなかった。 事実、後ろにいる連中から褒められても何もうれしくない。 唯一自分が認める人物は、族長のメイヴだけであった。 「くだらんおべっかを言う暇があったら、剣の腕でも磨くんだな。今のお前らじゃ足手まといになることはあっても、戦力の足し

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    oukastudio 2013/02/05
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  • つばさ - 第二章 敵

    山道を歩くのは、さほど困難なものではなかった。 翼人は、確かに普段は空を飛んでいることが多い。だが、二の足がついている以上、地上を歩くこともよくあった。 問題なのは、ベアトリーチェのほうだ。長い時間、運動することに慣れていないせいなのか、一歩一歩を踏み出すだけでもかなりつらそうに見えた。 「大丈夫か?」 「え、ええ、なんとか……」 「歩くのが速いか?」 「確かに、ちょっと速いかも……」 とはいえ、リゼロッテはここのところ歩きどおしだというのに平気な顔をしていた。大人である自分が先に音を上げるわけにもいかなかった。 「少し休憩しよう。ちょうどあそこに日陰がある。お互い、無理は禁物だ」 その言葉に、ベアトリーチェは救われた。 ――正直、もう限界。 リゼロッテの手前、膝をつくことだけは避けていたが、当は倒れてしまいそうなほどに苦しい。 ここは、カセルの南から帝都へ向かう道の中でも最大の難所だ

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    oukastudio 2013/02/04
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  • つばさ 11ページ 小説投稿サイト アットノベルス

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    oukastudio 2013/02/02
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  • つばさ - *

    窓から流れ込む風が、薄絹のカーテンを揺らしている。 机の角まで差し込んできた春の陽光が心地よい。こんな日は外に出て乗馬にでも出かけたかったが、ノイシュタット侯フェリクスは、今日も今日とて執務に追われていた。 「なぜ、私がこれほどまでに苦悩しなければならんのだ」 と文句を言っても、何も始まらない。反対に、処理すべき懸案は無数にあった。 「フェリクス様、嘆いたところでなんにもなりませぬぞ。手と頭をお動かしくだされ」 「わかっている。しかし、どうしようないからこそ嘆きたくなるんだ」 白金色の髪をぐしゃぐしゃとかきむしる。我慢が限界に達したときに見せるフェリクスの悪い癖だった。 「されど、フェリクス様。他の地域では、我が領地とは比較にならないほど多くの問題を抱えているそうです。まだこれだけで済んでいることに領民に感謝しませぬと」 「ああ、ありがたいことだ」 副官のオトマルのほうは見向きもせず、フェ

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    ふと目を開けると、窓の外が白みはじめていた。事をとったあと、すぐに寝た気がするから思ったよりも眠れたようだった。 リゼロッテは少し身を震わせて、赤い翼を体にまとわせた。 もう春とはいえ、さすがに朝晩はまだ肌寒い。いくら寒気暑気に強い翼人といえど、適度な暖かさが一番に決まっていた。 外の森は、少し霧が出ているようだった。薄い幕を引いたかのように、遠くの木々がかすんで見える。 「お母さん……」 小さな声に振り向くと、ベッドの上で寝ているディーターの寝言のようだった。 ――お母さん、か。 自分にとってはもう手の届かない存在。もしかしたら、この子にとっても。 ディーターと自分は同じなのかもしれない。自分だって、寝言で我知らず母の名を呼んでいる気がする。 目が冴えてきたリゼロッテは椅子から立ち上がって、音を立てないように慎重に扉のほうへ向かった。そして廊下へ出て、螺旋階段を自分でも危なっかしいと思

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  • つばさ - *

    見るもの触るもの、すべてが新しかった。 人間の上半身だけの不思議な置物や、何に使うのだろうと首をかしげたくなるような巨大な|甕(かめ)、そして壁に無数に飾られたタペストリー。 そのどれもが、リゼロッテが初めて見るものばかりだった。 自分とディーターという名の男の子は、大きな館の一室にいた。以前にも入ったことはあるのだが、人間の住居というのはおそろしく精巧にできているものだと改めて感心する。 どの部屋もきちんと長方形になっていて、通路も直線でつながっている。枯れた木と葉で適当に造る翼人の住み処とは大違いだった。 そのかわり、翼人のそれは必要とあればすぐに建て、不必要になれば簡単に崩して捨てられる。一方、人間の家は、しっかりとしているがゆえにそれは難しそうだった。 男の子と二人でそんな館の一室を興味津々の体で眺めていると、扉を二度叩く音がした。 リゼロッテが返事をすると、きっちりとした身なりの

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    それでも、たいした広さのある森ではない。しばらく飛んでいると、森の中央付近に高い木々に囲まれた館を見つけることができた。 おそらく、ここがそうだろう。ヴァイクはすぐに降り、テオの名を呼んだ。 「テオ! いるか!?」 すぐには返事は来ない。だが、遅れて館の奥のほうから彼の野太い声が聞こえてきた。 しばらくすると、扉を開けてあのごつい体が姿を現した。足の治療はすんだらしく、包帯を巻いて松葉杖をついている。 「ヴァイク! よかった、無事だったか」 「テオ、こいつらを頼まれてくれ。俺は、もう少し町の様子を見てくる」 「待った!」 リゼロッテらを預けるとすぐさま再び飛び立とうとしたヴァイクを、テオが鋭い声で呼び止めた。 「なんだ?」 「実は、ベアトリーチェさんが神殿のほうへ行くって、はぐれちまったんだ」 ヴァイクは頭を抱えた。 ――なんでこう次から次へと! 「どうして止めなかったんだ!?」 「すまね

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    ひょんなことになったものだと思う。 様子のおかしい翼人のあとをつけていたら、この町にたどり着いた。そこでひとりの人間と出会い、翼人の集団による襲撃が始まったあとで、またその女と鉢合わせした。 ――ほんとに、どうしてなんだろうな。 自分でもよくわからない。 女のわがままを聞いて炎の中に飛び込み、それから、そいつの仲間らしい連中を助け、挙げ句の果てに意識のない別の女を自分が運ぶことになった。 自分もとんだお人好しだと思う。 ――こういう性分なんだ。仕方ない。 昔から困っている人を見ると放っておけない。人間を助けてやったことも、一度や二度ではなかった。 〝人のために尽くせ〟 それが、兄の遺志だった。 ヴァイクはお節介な自分の性格を呪いつつも、カトリーネを抱きかかえて東の森へ向かっていた。幸い、ここまでは他の翼人に見つかっていない。 というより、明らかに前よりも数が減っている。 ――なぜだ? 悪い

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    森の動物たちが、急に落ち着きをなくしはじめたのはいつの頃からだったろう。 動揺は徐々に徐々に高まっていき、やがてそれが頂点に達したとき、一気に静けさが戻った。 だが、それは静かというよりは、不気味なほどの沈黙であった。 リゼロッテは、この雰囲気をよく知っていた。 嵐の前の静けさ。 大騒動が起こる前の、一瞬の静寂。 部族が壊滅したあの日のことを思い出す。 女の族長に率いられた戦好きの部族が、こともあろうに集落を直接襲った。なんの準備もしていなかった自分たちはあっという間に狩られ、生き残った者たちも完全に散り散りになってしまった。 その日、赤き翼のクー族は世界から消えた。 ――あのときと同じだ。 あの〝匂い〟が、今まさに漂っている。戦に慣れていない自分にとっては、それだけで胸が締めつけられそうになる。 このまま森に留まっていたほうがいいのだろうか。 しかし森は、どの翼人にとっても故郷であり庭で

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    だが、最悪の空中遊泳はすぐに終わることになった。 「何をしている!」 強い力に引き寄せられ、たくましい体に包まれる。気がついたときにはもう、市壁の安全なところに降ろされていた。 しなやかな筋肉に覆われた腕と濃紺の服が顔の近くから離れていく。 「大丈夫か?」 聞いたことのある声。 見たことのある肌。 そして、見まごうはずもない純白の翼。 「は、放して!」 ベアトリーチェは、男の手を無理やり振り払って後ずさりした。 離れてみて、男が困ったような驚いたような顔をしているのがわかる。 しかし、どうしてもベアトリーチェには許せなかった。 ――なぜ、こんなひどいことをしたのか。 ――なぜ、無実の私たちが虐げられなければならないのか。 「あなたたちが来なければ、あなたたちが|いなければ|(、、)、こんなことにはならなかったのに!」 ベアトリーチェからしてみれば、それはただ口を突いて出ただけの言葉だった。

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  • つばさ - *

    すべてが茜色に染まっていく。 結局、岩場で亡くなっていた男の埋葬が終わったのは、日が完全に傾いてからのことだった。 翼人の彼と別れたあと、テオの馬車で遺体を運ぶわけにもいかず、いったん神殿に戻ってから棺をここまで運んだ。 それに亡骸を入れてからまた神殿に戻り、やっとのことで共同墓地に葬ることができたのだった。しかもその間、衛兵による検分もあったので余計に時間がかかってしまった。 彼らも心臓がないことと、切り口があまりに見事なことに驚いていた。いろいろと調べていたようだが、残念ながら男の身元もまったくわからず、犯人やその目的のめどがつくはずもなかった。 「ふう……」 右腕に巻いておいた大事なスカーフを縛り直しながら、周囲を振り仰いだ。 まだ数人が作業をつづけている。神殿の仲間たちに手伝ってもらったものの、ただでさえ気が滅入る作業だ。気がつかないうちに、体だけでなくこころまで重たくなっていた。

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    oukastudio 2013/01/25
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