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ファンタジーに関するoukastudioのブックマーク (152)

  • つばさ 第二部 - 第九章 第二三節

    侯都上空の空気は、あからさまなほどに震えていた。 紅い翼がやってきた。 その事実が、あらゆる翼人のこころを激しく揺さぶった。 何せ、自身の部族が滅ぼされたはぐれ翼人は多い。たとえ故郷を、仲間を奪われた憎しみが強くても、そのときの恐怖のほうが未だ勝っていた。 だが、まったく別の面で動揺を隠せない者たちもいた。 「どうなっている、リオ? ヴォルグ族がこのタイミングで動くなんて」 彼らと同じ翼の色をしたアーシェラが、まるでその事実に気づかぬように眉をひそめて、隣に立つ蒼の翼の男に問うた。 「それはこちらの台詞だ。何も聞いてないぞ」 「奴らがここに来る理由はなんだ?」 「知るか。お前のほうがくわしいはずだろう」 「…………」 「――すまん、過去は詮索しないのが流儀だった」 歳のわりに屈強な、リオという名の青年は、不器用ながらも素直に頭を下げた。 「じゃあ、当に知らないんだな」 「ああ。あえて言わ

    つばさ 第二部 - 第九章 第二三節
  • つばさ 第二部 - 第九章 第二二節

    延々とつづく長い闇。 どこまでもどこまでも暗く、長い通路がつづき、終わりの見える気配もない。 ――長い―― いったいいつになったら、光が見えてくるのだろう。自身の呼吸と無数の足音が耳障りで、こころの内を乱していく。 ――いいえ、そうじゃない。 この苛立ちの原因はおそらく、〝恐怖〟なのだろう。危機に陥ったことはこれまで幾度となくあったが、自分の城(、、、、)が攻められ、荒らされるのはもちろん初めてのことであった。 しかも、兵士ではない一般の者たちまで倒れていく。この異常な状況に内面は激しく揺さぶられ、自身でもどこまで正気でいるのか定かではなかった。 ――前線で戦っているみんなは、いつもこんな恐怖を覚えていたのね。 どんな理由があれ、やはり後方で控えているだけの存在は卑怯者だ。これは、そんな自分に対する天罰なのかもしれなかった。 ――いけない。 アーデは首を振って、後ろ向きな感情を打ち払った。

    つばさ 第二部 - 第九章 第二二節
  • つばさ 第二部 - 第九章 第二一節

    ――やっと、打てる手は打てたかな。 まだ落ち着けるような状況ではないことは、重々承知していた。だが、ようやく必要な指示は一通り出し終え、戦況を見守る余裕が生じていた。 いつもの自室、しかし常とは違う異常な町の様子に、アーデは顔をしかめるほかなかった。 「ナータン、レベッカは?」 「まだ戻ってきてない。ヴァイクの居場所もわからないよ」 「そっか……」 「大丈夫だって、アーデ。俺たちがいれば」 「わかってる、レーオ」 ゼークの指示で城の塔に戻っていた蒼い翼の戦士に、アーデはひとつうなずいた。 しかし、思うように進まない現状に気が気ではない。町中(まちなか)の戦闘に沈静化の気配はまるでなく、むしろ戦域は郊外へ向かって拡大しているようにも見える。 すぐに戦況が変わるはずもないのだが、今のところ見ていることしかできない現実に苛立ちを隠せなかった。 だが、状況の変化は突如として訪れるものだ。 「え、何

    つばさ 第二部 - 第九章 第二一節
    oukastudio
    oukastudio 2018/08/15
    投稿、というか執筆を再開…
  • つばさ 第二部 - 第九章 第二十節

    ほとんど人の気配を感じない石製の通路は、ただひたすらに冷たく、無機的な印象をさらに強め、来るものを確実に拒む。 ダスク共和国の首都にあるディラン宮は、いつにも増して深い静寂に包まれていた。ほとんどの人間が外に出払い、ここには警備上、必要最小限の兵しかいない。 すべては、戦時下ゆえであった。 そんな都のブランで、国の最高権力たる執政官のひとり、アランは、来る者もないというのに謁見の間である〝鷹の間〟でたたずんでいた。 元から気難しげな顔が、今はさらにその深刻の度合いを増している。念のため近衛兵がついてはいるが、誰も声をかけることはできなかった。 とげとげしい空気を発する男の元へ、不意に近づいてくる気配があった。 「どうした、アラン」 呼びかけられて初めて気づいて顔を上げると、そこにはもうひとりの執政官がいた。 「――ミレーユか」 いつもより楽な格好をした彼女は、特徴的なきつめの化粧も今日は薄

    つばさ 第二部 - 第九章 第二十節
  • つばさ 第二部 - 第九章 第十九節

    下も乱戦、上も乱戦。 体勢を整えようにもこの荒れに荒れた状況の中ではどうしようもなく、仲間に対して伝達することさえまともにできない。 空気も何もかも重かった。 ――これが新部族の実力かよ。 舌打ちしたくなる思いに、灰翼のゼークは顔をしかめた。 指揮官たるアーデが失踪し、気持ちに混乱があるとはいえ、ここまで弱さを露呈するとはあまりに情けない。 ――自分も人のことは言えねえか。 今のところ、周囲の敵にみずから対応するので手いっぱいだった。剣を振るっても振るっても敵の連鎖は終わらず、戦いがつづく。味方の状況を正確に知ることさえ厳しかった。 とはいえ、力量の差は歴然。向かってくる無謀な者たちを次々と倒していき、やがて手近な敵はすべて退けた。 ――さぁて、どうする。 と、何かが近づいてくる気配を感じたのは、剣についた血を一度振り払ったときのことだった。 「あいつは……」 目をむいて驚いた。視線の先に

    つばさ 第二部 - 第九章 第十九節
  • つばさ 第二部 - 第九章 第十八節

    『外へは出るな』 そんなアーシェラの言葉が耳に残りつつも、中規模といえる館のロビーでネリーはひとり、右往左往していた。 外から断続的に響いてくる地鳴りのごとき轟音が、己の体だけでなく魂までも揺さぶりつづける。それらの中に混じる無数の悲鳴が、なぜか刃のように鮮明になってこちらを斬りつけてくる。 それから耳を塞ぎたくて、さっきまでは自室のベッドで布団にくるまっていた。だが、何をしようとその凶器ともいえる音は、無情にもこちらの内側へ入り込んでくる。 ――じっとしているということが、こんなに苦痛だったなんて。 何もできない自分。 何も見えない自分。 ――いや、そうじゃない。 |何もしようとしない自分《、、、、、、、、、、、》。 きっとこんな状況でなかったとしても、自分から進んで何かをしようとすることはなかっただろう。昔からそうだ、仕事や母親の看病を理由に新しいことから逃げつづけてきた。 自分ががん

    つばさ 第二部 - 第九章 第十八節
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    oukastudio 2018/04/14
    お待たせしました……
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  • つばさ 第二部 - 第九章 第十七節

    方々から立ち上る不穏な土煙はあたかも狼煙のようでもあり、それが見えるだけでいやおうもなくこころが騒ぐ。 ――状況は変わらず、か。 ノイシュタットにとっての戦況は思わしくない。ただの暴徒と思っていた相手はその大半が正規兵で、異様に士気が高いという現実が前線の兵士たちを戸惑わせている。 無理もない。他国との戦ともなればそれなりの〝覚悟〟が必要だというのに、その準備がまるでできなかった。いや、させてやれなかった。 万全を期したつもりが、この体たらく。戦というものの恐ろしさを思い知ると同時に、自分への失望が込み上げてくる。 「己という指揮官はこの程度か――」 「何をおっしゃいます、フェリクス閣下!」 元気のいい声が横から飛んだ。 青鹿毛(あおかげ)の馬上にいるのは、近衛騎士でありながらいつもは最前線にいるゲルトであった。いくら現在ではその位が名誉職化しているとはいえ、ノイシュタット侯軍のなかにおい

    つばさ 第二部 - 第九章 第十七節
    oukastudio
    oukastudio 2018/03/07
    久しぶりの更新。あと少しと思っていたら、よく考えたらエピローグの分が…
  • つばさ 第二部 - 第九章 第十六節

    侯都シュラインシュタットの混乱ぶりは、常軌を逸したものであった。 方々で逃げ惑う人々が互いにぶつかり合い、混乱がさらなる混乱を呼び、局所的に沈静化する気配すらない。 現状、暴動の広がりを止めようがなかった。暴徒による蛮行はなおいっそう過激さを増し、この混乱に巻き込まれる人々の数は際限なく増大していく。 ――はたして、これを暴動と呼んでいいものか。 オトマルは城の高い位置にあるベランダから全体の状況を見下ろし、ひとり思案していた。 このままではらちが明かない。被害は確実に拡大し、兵士も民も倒れゆく人々があとを絶たない状況だ。 来は、こうして眺めている場合ではなかった。 「ええい、どうしたらいい!?」 苛立ちまぎれに、ベランダの手すりを拳で叩いた。 歯ぎしりをして思わず己の剣を摑みかけたオトマルに、部屋の中に控える従者の誰も声をかけることができない。 そんな場に突如として現れた大柄な男に、周

    つばさ 第二部 - 第九章 第十六節
  • つばさ 第二部 - 第九章 第十五節

    どうしていいかわからない。戸惑いとやるせなさを感じ、新部族は戦いの最中(さなか)だというのに、ひどい混乱のうちにあった。 指揮官がひとりいないというだけで、まともに動くことさえできないでいる。それだけですでに、危機的状況であった。 そんななか、ヴァイクは不可解な思いを抱えたまま、上空を飛び回りながら状況を確認していた。 ――いったい、どうなってる。 新部族の連中は、帝都で見せたあの連動性はどこへやら、全体が明らかにおかしくなっていた。 不快感をあらわにしたヴァイクは、近くにいる萌葱(もえぎ)色のナータンに怒るようにして問うた。 「なんで中途半端な戦い方をしてるんだ!?」 「みんな、アーデを捜しながら戦ってるんだよ! だから、集中できてないんだ」 「ばかな! こんなときに二つの目的を追ってどうする!」 混沌とした状況ではひとつだけでも対応するのが難しいというのに、複数のことを同時にやろうとし

    つばさ 第二部 - 第九章 第十五節
    oukastudio
    oukastudio 2018/02/09
    やっと書けた…
  • つばさ 第二部 - 第九章 第十四節

    隣が戦場となった森の中は陰で、木漏れ日と呼ぶのもおこがましい弱々しい光しか入ってこない。 それでも、そんなところを全力で進むしかなかった。 真相を少しでも明らかにするために。 風を切るように疾駆する馬の上で、いつもよりも念入りに鎧を着込んだユーグは、ずっとひとつのことを考えていた。 ――なぜ、ロラント卿が裏切った。 理由がわからない。他の誰よりも忠誠心の高い騎士だったはず。 それがどうして? 推測しても答えは出そうにない。それくらい、来ならば〝有り得ない〟はずのことだった。 ――会ってみればわかるか。 やや薄暗い森の中で突然変化があったのは、さらに速度を速めようとしたときのことだった。 前方に見慣れた影があった。 「ユーグ様、お待ちください」 「ティーロか」 急ぎ手綱を引き、止まった。 やや小柄で若さを顔立ちに残しながらも、その所作から十分に鍛えられていることがわかる従士。 〝表〟だけ

    つばさ 第二部 - 第九章 第十四節
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    oukastudio 2017/12/06
     隣が戦場となった森の中は陰鬱で、木漏れ日と呼ぶのもおこがましい弱々しい光しか入ってこない。  それでも、そんなところを全力で進むしかなかった。  真相を少しでも明らかにするために。  風を切るように疾駆
  • つばさ 第二部 - 第九章 第十三節

    周囲を暗闇に包まれていても、はっきりと風を感じる。 自分はおそらく空中にいるのだろう、それもかなり高い位置に。 ――うかつだった。 油断があった。 状況の把握のために仲間を方々へ派遣したあと、拠点に残ったのはわずかな人員のみ。みずから孤立する状況をつくってしまった。 ユーグがいたら諫めたのだろうが、他のみんなもどこか冷静さを欠いていたのだろう、反論の声はまるでなかった。 しばらく待っても連絡がない。城のことがどうしても気になることもあって、こらえきれなくなった自分がそちらへ移動しようとしたときだった。 突然、背後から口を押さえられた。『なんだ!?』と思った次の瞬間には気を失っていた。 そして気がつけば、この状態。独特の匂いからして麻で編まれた袋に入れられているらしい。 無礼な振る舞いにかっと頭が熱くなるが、今ここで暴れても意味がない。それよりも、可能なかぎり周囲の様子を探った。 自分は誰か

    つばさ 第二部 - 第九章 第十三節
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    oukastudio 2017/11/23
     周囲を暗闇に包まれていても、はっきりと風を感じる。  自分はおそらく空中にいるのだろう、それもかなり高い位置に。  ――うかつだった。  油断があった。  状況の把握のために仲間を方々へ派遣したあと、拠
  • つばさ 第二部 - 第九章 第十二節

    空から見下ろす地上の人の動き、生き物たちの気配に不穏なものを覚え、ヴァイクは嫌な焦りを感じながら先を急いでいた。 大きいはずのシュラインシュタットの街は未だ見えてこない。最速で飛んでいるつもりだが、たまりにたまった疲れがこれ以上の無理を明確に拒絶していた。 ――〝虹(イーリス)〟の隊。 もし〝極光(アウローラ)〟の情報が当なら、これから何かが起こるはずだ。その何かは今のところ想像することさえできないが、新部族の連中に急いで伝えなければならなかった。 わずかな異変に気づいたのは、目的の場所の近くにある丘の上空まで達したときのことだった。 「なんだ……?」 前方に、地上から空へと伸びる薄い白色(はくしょく)の筋が見える。それがひとつ、ふたつと増えていき、やがて重なり合って大きなうねりとなった。 ――あれは! 明らかに煙だ。低い位置を漂う茶褐色の幕は土煙だろうか。 すでに何かが起きているのは間

    つばさ 第二部 - 第九章 第十二節
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    oukastudio 2017/11/16
     空から見下ろす地上の人の動き、生き物たちの気配に不穏なものを覚え、ヴァイクは嫌な焦りを感じながら先を急いでいた。  大きいはずのシュラインシュタットの街は未だ見えてこない。最速で飛んでいるつもりだが
  • つばさ 第二部 - 第九章 第十一節

    壮麗なるシュラインシュタットの裏手に屹立する山、その頂上付近は〝彼ら〟の領域だった。いくつもの翼がそこかしこに入り乱れ、何を話すわけでもなく、ただ静かに時が経つのを待っている。 元より、彼らは無駄な言葉を使うことが少ない。不安があれば、しゃべらずにはいられない人間との大きな差であった。 時間を気にしないこともそのひとつだ。待つことを嫌う者は少ないが、それでも今は来やるべきことがあった。 にもかかわらず動かないのは、ここにいつもいるはずの肝心な人物がいないからだ。 「まぁた、お嬢は来てねえのか」 苛立たしげにゼークは、腰に佩(は)いたままの自身の剣を片手で揺り動かした。 翼人の世界でも、いつも余計な一言の多い者もいる。これに関しては、人間の世界とまったく一緒だった。 やや非難のこもった彼の言葉に、萌葱色の翼をしたナータンが反論した。 「仕方がないよ。侯妹(こうまい)としても忙しいんだし」

    つばさ 第二部 - 第九章 第十一節
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    oukastudio 2017/11/10
     壮麗なるシュラインシュタットの裏手に屹立する山、その頂上付近は〝彼ら〟の領域だった。いくつもの翼がそこかしこに入り乱れ、何を話すわけでもなく、ただ静かに時が経つのを待っている。  元より、彼らは無駄
  • つばさ 第二部 - 第九章 第十節

    高台にある館からはシュラインシュタットの町並みが見渡せ、通りをゆく人々の流れがよく把握できる。 ネリーはその光景を眺めているのが好きだった。人の笑顔、行き交う声から活力を得られるような気がした。 だが、いつも長く見ていることはできなかった。 ――アルスフェルトの町を思い出してしまう。 いい思い出も悪い思い出もたくさんあった町。 そして、滅んでしまったであろう町。 すべての記憶が甦りそうになって、ネリーはあわてて振り払った。 ――今はまだ耐えられそうにない。 あえて思考を閉じるしかなかった。 それでも、頭に浮かんでくるのはネガティブなことばかりであった。 ――ここに来るんじゃなかった。 あのとき、新部族と話し合ったあのとき、人員を交換する話の際に自分は反射的に名乗り出た。 これが千載一遇の機会と思えたから。 だが、それは大きな間違いだった。 ――〝あの人〟はこの場にいない。 そのことにほっと

    つばさ 第二部 - 第九章 第十節
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    oukastudio 2017/11/03
     高台にある館からはシュラインシュタットの町並みが見渡せ、通りをゆく人々の流れがよく把握できる。  ネリーはその光景を眺めているのが好きだった。人の笑顔、行き交う声から活力を得られるような気がした。
  • つばさ 第二部 - 第九章 第九節

    厚い雲が重くたれ込み、やや湿り気を帯びた風が鎧をまとった兵士たちをなぶっていく。 ノイシュタット侯軍の陣では、準備を終えた騎士たちがそれぞれの持ち場で警戒を怠ることなく、主からの指令を待った。 フェリクスは幕舎から出ると、憂な顔で天を仰いだ。 「急に天気が怪しくなってきたな」 「怪しいのが天気だけならいいのですが」 背後に控えるユーグが、わざとらしくため息をついた。 「確かに敵軍は怪しい。相も変わらず暴徒と正規兵が混在しているようだ」 「いえ、ほとんどが正規兵と考えてよいかと。こちらを攪乱するためにあえて庶民の格好をしているのでしょう」 「ご苦労なことだ」 フェリクスはさして興味もない様子であったが、ふと背後の不遜な騎士を振り返った。 「怪しいといえば、敵方だけではないだろう?」 「と言いますと?」 「アーデも十分怪しいと思うがな」 突然のクリティカルな指摘にぎょっとした。 動揺を覆い隠

    つばさ 第二部 - 第九章 第九節
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    oukastudio 2017/11/01
     厚い雲が重くたれ込み、やや湿り気を帯びた風が鎧をまとった兵士たちをなぶっていく。  ノイシュタット侯軍の陣では、準備を終えた騎士たちがそれぞれの持ち場で警戒を怠ることなく、主からの指令を待った。  フ
  • つばさ 第二部 - 第九章 第八節

    方々から、危険なまでの熱気に満ちた声が上がる。 貧しい身なりをしながらも目を爛々と輝かせた者たちが拳を振り上げ、足を踏み鳴らす。 ふだんは静かすぎるほどに静かなはずの村を、早朝とは思えない空気が覆っていた。 「立ち上がれ、みんな! 今こそ〝奴ら〟に報復するんだ!」 その声に呼応し、怒りと憎しみに満ちた攻撃的な気配が広がっていく。 その様子が村全体へと浸透していくのを上空から確認し、ヌアドはひとりほくそ笑んでいた。 ――これでいい。 ここまでは予定どおり、狙いどおりだった。元から現状に不満を持っていた者たちは、ちょっとしたきっかけで爆発し、その炎を野火のごとく広げていく。 あらかじめ準備をさせておいた男に煽らせたのはよかった。予想よりも早く人が集まり、過剰なまでの熱を伝染させていく。 だが意に反し、それを押し止める声があった。 「待ちなさい」 声の主は誰あろう、ここ、ハレの村の長老であった。

    つばさ 第二部 - 第九章 第八節
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    oukastudio 2017/10/27
     方々から、危険なまでの熱気に満ちた声が上がる。  貧しい身なりをしながらも目を爛々と輝かせた者たちが拳を振り上げ、足を踏み鳴らす。  ふだんは静かすぎるほどに静かなはずの村を、早朝とは思えない空気が覆
  • つばさ 第二部 - 第九章 第七節

    シュラインシュタットという町は、明らかに盛り上がっていた。外に開かれていて自由な雰囲気に満ち満ちている。 あちらこちらでさまざまな服装をした者たちが行き交い、昼、夜となく大通りは人でごった返す。 そんな中を、二人の少年が楽しげに連れ添って歩いていた。 「俺は、こっちのほうが好きだな」 「うん」 なぜか手に持った小袋を振り回しながら言うドミニクに、ルークもとりあえず同意した。 ドミニクにとっては、ここも故郷のひとつだ。 父親の仕事の都合もあり、帝国と共和国を行ったり来たりだったが、どこか停滞した空気のあるダスクより、ここノイシュタットのほうが過ごしやすかった。 二人が軽快に道を進んでいくと、やがてシュラインシュタットの城の威容が目に飛び込んでくる。 その質実剛健な姿は見る者を圧倒し、あたかもここノイシュタットの勢いを体現しているかのようだった。 「俺もいつかあそこへ行けるかなぁ」 「え?」

    つばさ 第二部 - 第九章 第七節
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    oukastudio 2017/10/06
     シュラインシュタットという町は、明らかに盛り上がっていた。外に開かれていて自由な雰囲気に満ち満ちている。  あちらこちらでさまざまな服装をした者たちが行き交い、昼、夜となく大通りは人でごった返す。
  • つばさ 第二部 - 第九章 第六節

    遠方に侯都シュラインシュタット、そして眼下には森の外れ、草原の端に位置するひとつの天幕(テント)が見える。周囲には、人間の気配も翼人の姿もない。 マリーアと再会したヴァイクは、新部族の拠点に戻ることはせず、ある人々を捜し出すためにあれ以来ずっと動き回っていた。 ――ジャンとベアトリーチェは無事らしい。時間を置かず、そのうち会えるだろう。 喫緊の課題は、〝極光〟のほうだった。リファーフの村の一件以来、その影すら確認できない。 あのときのような誤解と混乱は二度とごめんだ。今のうちに、できれば話し合っておきたかった。 しかし、手がかりはまるでない。途方に暮れたヴァイクは助力を乞うべく、アオクの元へ来たのだった。 下方に見えるテントの脇へ急降下し、音もなく着地する。 ――誰か、来ている? 内側からの声がわずかに耳に届いた。はっきりとは聞き取れないが、アオクとは別の男の声だった。 また新部族のナータ

    つばさ 第二部 - 第九章 第六節
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    oukastudio 2017/10/02
     遠方に侯都シュラインシュタット、そして眼下には森の外れ、草原の端に位置するひとつの天幕テントが見える。周囲には、人間の気配も翼人の姿もない。  マリーアと再会したヴァイクは、新部族の拠点に戻ることは
  • つばさ 第二部 - 第九章 第四節

    ローエの都グリューネキルヒェンにある城にいる者たちは、いつものごとく淡々とみずからの仕事をこなしていた。 といっても出撃の準備であるのだが、北の隣国ゴールなどとの争いに慣れた家臣らは、特にこころを乱すことはない――のだが、珍奇なことに、いつもはまるでやる気のないひとりの人物が朝からずっとあわてふためいていた。 「まだ出られないのか!」 書類の整理をしていたニーナが、振り向きもせずに答えた。 「まだ準備が整ってないんだから、しょうがないじゃないですか」 「だから、それを早くしろって言ってんだろ」 「じゃあ、ライマル様も手伝ってください。城の者はきちんと働いております、いつものとおり(、、、、、、、)」 「もっと急げって! だいたい、相手の動きが予想よりずっと早いじゃねえか」 「どうも焦っているようです、なぜかはわかりませんが」 「平気な顔して語ってるんじゃねえ! これは、とんでもないことにな

    つばさ 第二部 - 第九章 第四節
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    oukastudio 2017/09/29
     ローエの都グリューネキルヒェンにある城にいる者たちは、いつものごとく淡々とみずからの仕事をこなしていた。  といっても出撃の準備であるのだが、北の隣国ゴールなどとの争いに慣れた家臣らは、特にこころを