技術革新の進む20世紀半ば。ひとりの経済学者が、今日的なメディア産業批判にも通じる議論を提示する。コミュニケーション・メディアの深奥部には〈バイアス=傾向性〉が潜んでいること、それによって新しい社会の特性が決定づけられ、その時代の人々の思考様式などが変化していくこと。カナダの経済学者ハロルド・A・イニスは、粘土板・パピルスから新聞・ラジオまで、あらゆるメディア媒体の歴史を探査しつつ、ダイナミックな文明史観を描き出してみせた。彼の遠大なメディア論構想とそれが今日もつ意義について、東京大学教授・水越伸先生に解説していただきます。 一九九〇年代に入り、メディア論が一つの学問領域としてかたちを整えて始めてから今日まで、ハロルド・イニスは、幾多の本や論文で取り上げられながら、マクルーハンの前座を務めた人物という程度に言及されるばかりで、ほとんど顧みられることがなかった。本書もまた、メディア論の教科書