映画は女の呪術的なモノローグから始まる。音(霧島れいか)はセックスの度に憑かれたように物語り、それを夫の家福(西島秀俊)は翌朝、彼女に口伝てする。無意識から引きずり上げられた物語を書き起こすことによって、音は脚本家としてのキャリアを築いてきた。特異な関係性を持つ夫婦だが、そんな2人の間にも冷ややかな溝がある。かつて幼い娘を亡くして以後、舞台演出家兼俳優である家福はその哀しみから目を逸らすように仕事に打ち込み、音は夫以外の男と関係を持ってきた。家福は他の男に妻が抱かれるさまを目撃するが、それを胸の内にしまい込む。 そんなある日、音が急死する。直前に言い遺していた「話したいことがある」。不貞の告白だろうか? それとも別離を告げる言葉だろうか? 何もわからない空虚さだけが残り、年月が過ぎた。 濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』は行き先のわからないドライブのような映画だ。特段、物珍しい風景があ