(第244号、通巻264号) 文中に「人気」という2文字を目にしたらごく自然に「にんき」と読む。ただ、文脈によっては「人気のない境内」などのように「ひとけ」と読む場合もある。しかし、「じんき」という読み方までは思い至らなかった。 昭和半ばころの、ほんの少し前までの市井の古い言葉に巧みだった作家の向田邦子の回想録に「人気」と書いて「じんき」と読ませる個所がある。向田が飛行機事故で亡くなってから30年になるのを機に朝日新聞夕刊で連載した「人生の贈りもの」という記事だ。妹の向田和子さんからの聴き語りをまとめたものだが、その3回目「闘病の姉と『ままや』開店」で和子さんが姉から「女同士でも気軽に入れる店をやりましょう。人気の良い場所でね」と小料理屋を開くよう勧められる行(くだり)で「人気」の2文字に「じんき」とルビが振ってあった。 「人気スター」とか「若者に人気のある」など“popular”という意