町田康「人間って自分を乗り越える方法はそんなにたくさんない」 音楽と日本語、そして酒を呑むことのつらさ 俺は絶対に間違っているという自信がある ――本の話に戻りますが、呑んで酩酊したさきに書けたこととかあるんですか。 町田:書くときは、あまりなかったかもしれませんね。友だちと呑んでて、なにか自分が言ったことがその場ではあまり話題にならなかったけど、そのことを覚えていてあとで小説に書いた、ということはありましたけどね。『ギャオスの話』という短編は、そんなふうにして書きましたね。ただ、酔っぱらってドラッグ体験のような感じで「神を見た!」とか、そういうのはないと思います。昔はヒロポンとか売ってましたから、あの時代の人たち――坂口安吾とか織田作之助とか――はひと晩で短編30枚で書いたとか、そういう感じだったらしいですけどね。いまは、そういう人はいないんじゃないですかね。覚せい剤を注射した勢いで書く