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ブックマーク / susukigrassland.hatenadiary.jp (14)

  • フォンタンの未来 - ある生物学者の不可思議な心臓

    先日、フォンタン患者とその家族それに全国から集まった小児循環器医が参加したフォンタンのセミナーがあり、おいらは患者の一人として体験談を語ることになった。おいらは、今住んでいる南の島の中ではフォンタン患者として最高齢らしいが、それは別に偉いことでもなんでもない、というひねくれた導入から始まり、10分弱で自分の病気の体験をプレゼンテーションにまとめてお話しした。生物学者の端くれとして、ここぞとばかり生物学的視点も加えて説明したら、これが思いの外好評だった。 その発表の内容はともかくとして、先天性心疾患に関する生物学的研究は現在に至ってもほとんど行われていない。そもそも、生物学と医学は全く別の学問分野として確立しており、それぞれが同じ問題を研究することはあまりない。先天性心疾患も例外ではなく、医学的研究は数多く行われていても、生物学者にはほとんど無視されている。先天性心疾患が遺伝性の病気であった

    フォンタンの未来 - ある生物学者の不可思議な心臓
  • 単一の病院における心外導管型フォンタン術患者500人の予後 - ある生物学者の不可思議な心臓

    久しぶりに論文紹介をしよう。それほど目新しい研究内容ではないが、日国内の病院がこれほど多数のフォンタン患者を追跡調査した研究成果は珍しい。 Nakano, T et al. 2015. Results of extracardiac conduit total cavopulmonary connection in 500 patients. European Journal of Cardio-Thoracic Surgery 48: 825–832 福岡市立こども病院で、1994年3月から2014年3月の間に、500人の患者(平均年齢3.4歳)が心外導管型フォンタン術を受けた。この論文では、術後短期から中期的な、死亡率、合併症等の発症率、血行動態、心肺運動能力および肝検査を追跡調査した。 結果:500人中死亡19名、生存率は10年で96.2%、15年で92.8%。徐脈性不整脈および頻

    単一の病院における心外導管型フォンタン術患者500人の予後 - ある生物学者の不可思議な心臓
  • デリケートな多様性 - ある生物学者の不可思議な心臓

    今日書く話は、触れないでおくのが無難な非常にデリケートな話題である。そう、おいらの住んでいる南の島で、今週末、米軍基地建設の是非を問う住民投票が実施される。この島に長年根づく非常に重いテーマであり、おいらだけでなくおいらの周囲の人も皆ナーバスになっている。島の外に住む方には意外かもしれないが、島の人々の考えは必ずしも一枚岩ではない。皆、すごく悩んでいる。悩んでいるというよりも、困っているという方が正しいかもしれない。 曖昧な表現が続いてしまって申し訳ない。せめて、少しでもスッキリしていただけるよう、おいら自身の考えをなるべく明確にお伝えしたい。おいらは、多様性をこよなく大事にしたいと思っている。だから、基地建設で生物多様性が失われることはやはり反対である。でもおいらが大切に思うのは、生物多様性だけではない。生き方の多様性、文化の多様性、主義・思想の多様性といった人間社会の多様性も大事に思う

    デリケートな多様性 - ある生物学者の不可思議な心臓
  • 2つの記録 - ある生物学者の不可思議な心臓

    今から約3年前半の38歳の時、おいらはTCPC conversion(フォンタン転換手術)を受けた。その時の手術直後の状況をが記録してくれていた。このサイトを作ろうと思ったきっかけは、30年前の母の残した記録と3年前のの残した記録、その2つの記録があったことが大きい。 辛い思い出しかない手術や入院のことなんて、正直人は忘れたい思いだった。しかし、いざしばらく時間が経ち、後で記録を読み返すと、なんだかとても貴重な体験をしたように思えてきたのだ。記録が残っていて良かったと思った。そう思うと、おいらの記憶のなかにしまってある病気の体験も書き記しておきたいと思えてきた。記憶はいずれ薄れてしまう。しかし、ただノートに書き記すだけではすぐに飽きてやめてしまいそうだ。だから、継続できるよう書くことがノルマになり、そして自分だけでなく同じ病気を抱える人々にとっても少しでも役立つような情報として残した

    2つの記録 - ある生物学者の不可思議な心臓
    CALMIN
    CALMIN 2019/02/10
    少々大袈裟に言うとフォンタンを目指す心疾患児の母であるわたしの道標にもなっています
  • 命の品定め - ある生物学者の不可思議な心臓

    最近、おいらの住む南の島のサンゴ礁を巡って、世界中を巻き込んだ論争が起きている。軍事利用のためにサンゴ礁が埋められる事態が迫っており、その保全が争点の一つになっているのだ。おいら自身は、生物学者の端くれとして保全を願っているが、生物保全の意義を科学的に説明することは実はかなり難しい。おいらの足りない知識で申し訳ないが、なぜ科学的意義付けが難しいのかをおいらなりに説明してみたい。 生物学の一分野に保全生物学という分野があり、この数十年で急速に発展した。保全生物学の理論では、生物とくに生物多様性には、環境浄化、気候や生態系の安定化、生物資源の生産など、人類では到底達成できない莫大な価値があるとされる。これらは実際に多くの研究で実証されており、生物多様性を経済価値で評価すると恐ろしい金額になる。しかし、こうした経済価値を重視した視点では、経済価値のない生物種や生態系は破壊して良いという解釈もでき

    命の品定め - ある生物学者の不可思議な心臓
    CALMIN
    CALMIN 2019/01/09
    保全生物学という学問を恥ずかしながら初めて知った/生物多様性の保全は経済価値、歴史的価値、希少性という観点からも見ることができるんだね/とても重いタイトル
  • フォンタン子の生き方 - ある生物学者の不可思議な心臓

    とてもありがたいことに、今後のラインナップを載せて以来、多くの方々からコメントやリクエストをいただいた。今後いただいたリクエストには時間はかかっても一つ一つお話ししていきたいと思う。しかし、今回はリクエストにないことを書いてしまう。なんと天邪鬼なやつだがどうかお許しいただきたい。 コメントをいただいた方には、ご自身が先天性心疾患の方ももちろんおられるが、お子さんが先天性心疾患である親御さんも多い。そうした親御さんに向けて、おいらのおこがましい余計なお節介なメッセージをお伝えしたい。気を害したらごめんなさい。 病気の子供を持つ親御さんの中には、そうした重い心臓病を抱えた子供を産んだことに対し強い自責の念を感じている人も多いのでないだろうか。あるいは、罪悪感を感じながらも後悔をしていたり、どうして我が子がこんな目にとやり場ない怒りを感じたりもするかもしれない。入院や手術によって痛みに苦しむ我が

    フォンタン子の生き方 - ある生物学者の不可思議な心臓
    CALMIN
    CALMIN 2018/08/21
    当事者の方からのメッセージに救われました。ありがとうございます。いつも爽やかな読後感が残ります。これからも更新楽しみにしております。
  • フォンタンマスターへの道:水編 - ある生物学者の不可思議な心臓

    先天性心疾患者にとって、体内の水分量コントロールは極めて重要な課題だ。多過ぎれば、体が浮腫むだけでなく血液量が増えて心臓に大きな負担がかかる。しかし、少なければ脱水や血栓のリスクが高まる。この点は、フォンタン患者には、特に難題である。フォンタン患者はただでさえ静脈圧が高くなりやすいため、水分が減って血がドロドロになるとますます静脈圧が上がってしまう。静脈圧が上がれば、腎臓、肝臓、消化管など様々な臓器が血してやがて機能不全を起こしてしまう。だから、しっかりと水分は取る必要がある。でももちろん多ければそれだけ心臓の負担が大きい。それはまた心不全の原因になり、静脈圧の上昇と多臓器不全を導く。どっちにしても大きなリスクがあり、絶妙な水分コントロールが要求される。 そのため、多種の利尿剤を併用服用しているフォンタン患者が多いだろう。おいらもまた、3種の利尿剤を毎日服用している。どの薬をどの程度使う

    フォンタンマスターへの道:水編 - ある生物学者の不可思議な心臓
    CALMIN
    CALMIN 2018/05/02
    ユニークな語り口だけど内容は非常に重要
  • 入院ランキング - ある生物学者の不可思議な心臓

    よく雑誌などに病院ランキングが出ていたりする。それは手術実績や病床数などを基にして、主に医療技術や施設の充実度で評価されている。もちろんそれらは極めて重要なポイントではあるが、入院患者にとってそれと同様に気になるのが入院生活の実態であろう。おいらは、この数年で5つの病院に入院した。5つではランキングをつけるほどの数ではないが、今日はそれぞれの病院の入院環境をおいらの印象で勝手に評価してみよう。ただし、病院名は伏せておく。また、順番=ランキングを意味しない。 ①NC病院:おいらが最もお世話になった子供専門の病院 入院理由:PLE治療、不整脈停止、フォンタン再手術、消化管出血、手術創部化膿、カテーテル検査 病室:大人が入院すると無料で個室に入れてくれる。 テレビ:約30時間/1000円、イヤホンなしで視聴可。 冷蔵庫:なし。冷蔵しておきたいものはナースステーションで預かってくれる。ただし飲み物

    入院ランキング - ある生物学者の不可思議な心臓
    CALMIN
    CALMIN 2018/04/15
    成人CHD患者さんによるレアな入院生活レビュー
  • Death is a natural part of life - ある生物学者の不可思議な心臓

    「死は生きることの一部だ」。映画スターウォーズで、ジェダイマスターのヨーダが言った名言である。800年以上生き続けジェダイの頂点に立つヨーダが言うと、確かにとても深みのある言葉に感じる。がしかし、先天性心疾患者にとっては当たり前な感覚である。以前にも書いたが、先天性心疾患者には死は生きることより易しい。死は常に身近にある。だから、May the death be with you(死とともにあらんことを)、なのである。 フォースがあらゆる生命に備わったエネルギーであるように、死もあらゆる生命に存在する流れのようなものだ。フォースと死はとてもよく似ているのだ。どちらも命あるものに必然的なものであり、避けることはできない。暗黒面の親玉シスは、「フォースで死を克服できる」と若きジェダイのアナキンを誘惑する。しかし、現実は死は必然でありフォースを持ってしても克服できないのだ。フォースを徹底的に修行

    Death is a natural part of life - ある生物学者の不可思議な心臓
    CALMIN
    CALMIN 2017/12/19
    フォンタンマスター……
  • 研究材料になる研究者 - ある生物学者の不可思議な心臓

    おいらの症例は、これまでに少なくとも2回医学系の学会で発表されているようだ。そのどちらも、フォンタン再手術を受けた病院の医師による発表である。研究のデータとして使う際には、事前に同意書の記入を求められる。おいらも研究者の端くれだから、おいらの情報が研究に活用されて未来に役立つのはとても嬉しいので、なんのためらいもなくサインした。 一つは、今から4年半以上前においらが初めてその病院にかかった頃の状況を報告したものだ。子供の頃のAPCフォンタン手術後、20年以上通院せず定期的診察を怠った(ドロップアウトした)結果、不整脈、PLE等のフォンタン術後症候群を発症したことを報告していた。発表の結論では、定期的フォローアップの必要性を説いていた。実際、その病院の主治医の先生からは「あなたは診察に来るのが少し遅すぎた。」と言われてしまい、先生としてももっと早くきていればあるいは定期的診察をしていればと、

    研究材料になる研究者 - ある生物学者の不可思議な心臓
  • 3%で変わる生き方 - ある生物学者の不可思議な心臓

    フォンタン再手術後から、おいらのサチュレーションの値が少し下がっているのがずっと気になっていた。手術前は96%ほどだったが、手術後は93%ほどしかいかなかった。先日、今診てもらっている医者にそのことを聞いたところ、ようやくそのメカニズムがわかった。 その原因とは、心臓を流れた血液が来右心房に流れるところを、手術で左心房に流すように変更したためだった。冠動脈を通って心筋に行き渡った血液は、酸素が消費されて静脈血になる。その血は冠静脈を通り、来は右心房に戻ってくる。右心房には全身からの静脈も流れ込んでくるので、それと一緒に肺に送られて再び酸素が与えられ、動脈に生まれ変わる。しかし、フォンタン循環の人は、静脈の流れが極めて遅いため、右心房にたくさんの血が流れ込むと血してしまう危険がある。うっ血は静脈の血圧を高め、心臓に負担になる上、PLEなどのさらなる合併症の原因になる。だから、冠静脈はこ

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  • 水と緑の豊かな病室 - ある生物学者の不可思議な心臓

    すっかり間が空いてしまったが、また2年前の再手術の時の話に戻ろう。前回までのおさらいをすると、手術を終え、やっと一般病棟に戻ってきたところだった。 一般病棟はともかく明るい。眩しいほどに陽の光が差し込んでくる。窓を開けると生暖かい風があたり、外気の匂いがした。都会の病院と違って、山に囲まれた絶景の見える地域にある病院だったため、山や森や水田からくる清々しい緑の匂いだった。それは当に心地よい香りだ。おいらは植物を研究しているから、普段から植物に触れ匂いを嗅いできてはいたが、しばらく消毒と薬品の匂いで満たされた空間にいると、久しぶりの緑の香りは格別なものだった。 そんな快適な一般病棟の生活はすぐに奪われた。病棟に戻って3日ほど経った晩、急に息苦しくなったのだ。最初は気のせいかと思ったが、かなりしんどい。医者がエコーで調べると、どうやら肺の下に水が溜まっているようだった。緊急でICUにうつされ

    水と緑の豊かな病室 - ある生物学者の不可思議な心臓
  • ムーベンで無理便 - ある生物学者の不可思議な心臓

    今日は汚いシモの話をしよう。お嫌いな方は読まないことをお勧めする。 昨年の地獄入院から15ヶ月。ついに再び入院することになってしまった。そのためしばらく記事を更新できなかったが、入院中に書きためたので、この後もあまり日を置かず続けて載せていきたい。 今回の入院は地獄入院の続きでもあり後始末でもある。昨年の地獄入院の際に、おいらの大腸に9つのポリープが見つかった。来なら見つかった時点ですぐにとっても良かったのだが、その時のおいらは消化管出血を起こしていて極度の貧血状態にあり、これ以上の出血を伴う処置は危険だった。そのため、出血が落ち着いてからということになり、結局その後色々あって伸ばし伸ばしになってしまった。そして、現在。出血も収まり体調も比較的安定していることから、ポリープ切除術をしても大丈夫だろうということになった。 ポリープの切除は内視鏡を使っての比較的簡単なものである。麻酔は使わず

    ムーベンで無理便 - ある生物学者の不可思議な心臓
    CALMIN
    CALMIN 2017/09/10
    むごすぎる( ´∵`)ご子息様お手製の湯たんぽ袋すてき
  • フォンタンの革命 - ある生物学者の不可思議な心臓

    フォンタン手術は、先天性心疾患に対する手術の中でも特に革命的であった。1971年にフランスのフォンタン医師が、二心室修復の不可能な先天性心疾患に対する根治手術としてこの手術法を考案した。それまでは、そうした心疾患を持つ子供たちになすすべき手はなく、彼らの運命は絶望的でしかなかっただろう。フォンタン手術を受けられるかどうかは、まさに生きるか死ぬかの選択であった。 そもそも、先天性心疾患といっても、実はいろいろなタイプのものがある。生まれつき心臓や心臓につながる血管に何らかの奇形をもつ病気を、一括りに先天性心疾患とよんでいる。比較的多いのが、2つの心房の間や心室の間に穴があいている、中隔欠損症という病気。これらは穴の大きさによって重症度が違うけど、他の奇形がなければ2心房2心室があるので、穴を塞ぐことができれば正常の心臓の形に修復することができる。 そして、より複雑な奇形があるものが多数のタイ

    フォンタンの革命 - ある生物学者の不可思議な心臓
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