昨年はフランツ・ファノン生誕100年記念に関連して世界各地でイベントが多く開かれたが、日本でもアシル・ムベンベの新著が刊行されるなど、今、あらためて非西洋圏の思想・哲学に注目が集まっているといえる。こうしたポスト・コロニアル議論再燃の背景には、昨今のアメリカ合衆国はもちろんヨーロッパ諸国に対する深い政治的失望があることは否めない。 ところでドイツ語圏(ドイツ・オーストリア)に限っていえば、いわゆる「哲学」と呼ばれる分野において、これまでポスト・コロニアル理論の存在感は決して大きくなかったように思う。哲学が現実の問題や歴史に無関心であったということではない。20世紀以降の思想家の多くが、人類によって引き起こされた惨禍の数々 ー 世界大戦、ナチズム、ホロコースト、全体主義、資本主義(産業)社会、テクノロジー etc. ー に向き合うことを、自らの思索の軸に据えてきた。 だがその一方で、ヨーロッ

