科学史においては、何が科学で何が科学でないかについてはこだわらない。それにはいろいろな理由があるのだが、そもそも「科学」という言葉自体、かなりあいまいに使われていて、それに対応する言語によって差異があるからでもあるし、そもそも本質主義的な定義を受け入れないほどに、歴史的・地理的な文脈に規定されているからでもある。だが、それ以上に、定義を考えることがそれほど科学史の研究に役立たないからだ。科学の定義を決めたとしても、その定義に当てはまるもののみを科学史の対象とするかといえば、そうではない。科学史の研究にとって貢献するような対象であれば、それは科学史の対象になる。つまり、一方で、明らかに誰もが科学と認めるような中核的な科学があり、それに対する歴史的研究を科学史と呼ぶことについては一応コンセンサスが得られている。そして、科学であるのか、ないのか分らないようなものについても、それについての研究がコ