私の会社には寿司がいる。ネタはマグロで握り型、そう珍しくないタイプだ。シャリは少し温かく、サビ抜き。少々慌て者だが穏やかな人柄で、けして女の子にモテるようなタイプではないけれど、人に信頼されるタイプの人物――いや、寿司だった。 寿司が社会進出しはじめたのは、今から十年ほど前のことだった。当時の私はまだ中学生で、友達とのグループチャットでの対応がこの世でもっとも大きな悩みであるような小娘だったが、この事件についてははっきりと記憶に残っている。 「寿司と仕事をするだって? そんなの腹が減って仕方がないじゃないか」 テレビを見ていた父が忌々しげに叫んだのを今でもよく覚えている。 「いいじゃない、あなた。だってナマモノは苦手でしょう? 寿司がいたってお腹が減ったりしないわ」 「そりゃあそうだが、母さん、あれだぞ。俺はサーモンだけは別だ」 テレビに写っているのは炙りサーモンの女性だった。まだ若いらし
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