●山崎ナオコーラ「この世は二人組ではできあがらない」(「新潮」12月号)。これはすごく面白かった。センスの良さと、関係における倫理性の追求という主題の骨組みだけで出来ていたような『人のセックスを笑うな』からずっとつづく主題的な一貫性を保ちつつ、この小説では細部のふくらみと作品としての強さが飛躍的に増しているように思われた。書くことそのものが人を導く、ということなのだろうか。小説家ってすげえな、と思った。というか、小説ってすげえ、と言うべきなのか。 この小説のすごいところは、描かれている事柄自体は「ものすごく普通だ」というところにあると思う。登場人物たちのあり様も、話の中心となる栞と神川との関係も、登場人物たちの大学生活と卒業後にぶつかる現実も、小沢健二やフィッシュマンズ、「オリーブ」といった文化的な参照項も、時事的な出来事の取り扱いも、どれをとってもびっくりするくらい普通のことだ。特異な人