日々続く、格言を探す旅。探す旅といっても、自分が歩いてきた道を辿るような旅ですが、時間を置いて歩くと、同じ道でもいろいろ発見があるものです。 今回は、近代批評の巨人・小林秀雄の小品から。角川文庫版の『常識について』などに収録された「真贋」という話のなかの一節です。 骨董商「瀬津」の主人の話としてこんな話を語っています。 今では名の知れた骨董商となっている主人が青年のころ、骨董商が集まる競りで、志野焼の素晴らしい茶碗を見つけます。青年はなんとしてもそれを落とそうと、5000円、いや6000円まで出しても構わないと決め(「真贋」が書かれた昭和26年で、教員初任給が5000円程度。競りが行われていたのは恐らく昭和の初めでしょうから、そのころですと教員初任給が50円程度の時代)、入札したところ3000円で落札。狂喜していると、なんと、先輩の商売人から「あれはどこの会でも300円を出たことがない」と