先鋭な短歌、ちょっとひねくれたエッセイなどで、70年代の読者をサブカルチャー的に牽引した寺山。『血と麦』という短歌集などを夢中で耽読したものだった。 きみのいる刑務所とわがアパートを地中でつなぐ古きガス菅 悲しみは一つの果実てのひらの上に熟れつつ手わたしもせず 寺山は競馬を書いて抜群だった。『誰か故郷を想わざる』というエッセイ集の中の一編『競馬』は秀逸だ。走り続けなくては鳴らない哀しい宿命の星の下に生まれたサラブレッドの生涯を、競馬場のダフ屋、おかま、などが登場して追っていく。華奢な脚を怪我したら、たちまち、食肉として売られていくサラブレッドたち。 キタノオーザは菊花賞に勝った花形だった。ひたいに白い流れ星があり、鹿毛で見事な美丈夫、左の股下にHの烙印がある。Hとは北海道日高に生まれ育ったしるし。いわば「栄光のマーク」を持った馬だ。 ところが、一向に出走の機会もなく年老いていった。厩舎では