筆者はここ数年RIETIやシカゴ大学を根拠地にして、多くの日本の行政官たちとEBPM(証拠に基づく政策)の重要性について語ってきた。だが仮に有効性のエビデンスが全くない政策、何のポジティブな効果も期待できず、かえって国民の生活に悪影響を与えることが自明と考えられる政策が場当たり的に押し進められようとする時、それに抗する行政官がいないのであれば、EBPMは単なる飾りものとなる。EBPMは政策判断に合理性を導入することに意図があるからだ。いつからか日本の行政組織が、命令系統の秩序を保つことを国民の安全や利益を守ることに優先させる組織に変質してしまったかのように見える昨今、国家公務員の矜持は国民の利益を第一に考えることではなかったのか、と改めて問いたい。 読者の中には、筆者がコロナウイルス問題について何が科学的で合理的であるかの議論をする資格を問うものがいるかもしれない。筆者はかつてコロンビア大
個人では超優秀な日本人が、企業体になるとなぜ世界に負けるのか;日本企業の極めて低い生産性の背景に何があるのか 1 個人では超優秀な日本人 OECDは、72カ国・地域の15歳児に対して、2000年から3年ごとに「OECD生徒の学習到達度調査(PISA)」を行っている。2015年の調査には、世界約54万人が参加、日本からは198校、約6600人が参加した。その結果、 科学的リテラシー 日本 第1位 平均得点538点(OECD平均493点) 数学的リテラシー 日本 第1位 平均得点532点(OECD平均490点) 読解力 日本 第6位 平均得点516点(OECD平均493点) となった。PISAは、人間の全ての面を正確に評価するものではないが、少なくとも、15歳時点では日本人は極めて優秀であることがわかる。 2 企業体になると世界に負ける日本人-極めて低い生産性- ところが、超優秀な日本人が大人
OECD諸国における特殊合計出生率(TFR)と女性の労働力参加率(FLPR)の関係の方向と強さを示す相関係数の値は、1980年以前は負であったが、1980年代を経て1990年代以降、正に転じたことはよく知られている。かつては女性の労働力参加率の比較的低い国が出生率が高かったのが、現在では、女性の労働力参加率の高い国が出生率も高くなっているのである。係数は1980年代に次第に変化し、1986年頃を境に負から正へと逆転している。 これにより欧州諸国やわが国では、「女性の労働力参加の増加はかつては出生率の減少をもたらす傾向にあったが、現在はむしろ出生率増加をもたらし、少子化傾向の歯止めの役割を果たす」といった説が提唱されるようになった。しかしその理論的根拠は曖昧といえる。変化のメカニズムが解明されないまま事実としてそうだからという議論である。有配偶女性にとって常勤の仕事と育児は両立が難しい、とい
このごろIT(情報技術)の世界でメディアをにぎわせている話題に「ICタグ」がある。商品につけた半導体チップに情報を入れ、電波で受信して在庫管理や防犯などに使おうというものだ。国際的には、MIT(マサチューセッツ工科大学)を中心にして決められた規格「オートID」が標準になり、ウォルマートなどが採用を決めた。日本でも、慶応大学にオートIDセンターができ、実装が進んでいる。 ところが、そこに「ユビキタスID」というのが現れた。まだ規格も固まらず、作っているメーカーは2社だけだが、そのリーダーである東大の坂村健教授は「米国にあわせる必要はない。日本独自の標準を作ることが国益にかなう」として政府の関与を求めている。これは「バーコードは米国の規格だから、日本独自の国定コードを作ろう」というようなものである。 坂村氏がこういうナショナリズムをあおるのは、今回が初めてではない。15年前に彼が進めた「トロン
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