先日、母のアトリエで数年前、島に越して間もない頃の写真が出てきて眺めていた。そこにはしばらく私の家でごろごろしていた父の姿があった。写真の父は島の我が家を尋ねてきたかつての部下と談笑していた。今の父からは想像できない豊かな笑顔だった。 島に越したのはほんの四、五年前。我が家で海を眺め悦にいっていた父は、私が夜中に用意した朝ごはんのおかずを冷蔵庫から取り出し、牛乳をレンジで温め、パンを焼き、寝坊な私など無視して一人で食事をしていた。カナの散歩の時間には一人で浜辺を回り、ついでに近所のホテルで茶をして帰ってきたり、街中にぶらりと出かけ、文藝春秋や、週刊新潮、週刊文春を買ってきては、部屋でくつろぎ読んでいた。或いは図書館で島の民俗誌を借りてきて読んでいた。島の民話は私よりも詳しかった。 しかし、現在の父は、歯磨きも一人で出来ず、字も書けず、家人が留守を頼むと、そのあとを追って寝巻き姿で街中を彷徨