官邸や東電本店の要請に従わず、海水注水を強行した吉田昌郎福島第一原発所長。日本中が喝采を送った「海水注入騒動」だが、事故から5年半経って原子炉にほとんど水が入っていなかったことが判明した。 『福島第一原発 1号機冷却 失敗の本質』は、6年間にわたる1000人以上の関係者取材と約428時間に及ぶ東電テレビ会議のAI解析によって浮かび上がった数々の「1号機冷却失敗」の謎に迫った調査報道の力作だ。本書から一足先に「届かなかった海水注水」をめぐる衝撃の事実を特別公開する。 ほとんど注水はされてなかった 2016年9月7日。福岡県久留米市内のホテルはどこも珍しく満室だった。 春と秋、年に2回行われる日本原子力学会の大会に参加するため、全国から原子力関係者が、久留米市に集まっていた。 学会では、原子力安全や放射性廃棄物処理、高速炉などの次世代炉開発、核燃料など様々な分野の専門家が研究成果を発表する。そ