保坂和志「書きあぐねている人のための小説入門」(草思社)(ISBN:4794212542)を読んだ。題名が「小説入門」となっているけれど、内容は保坂和志が考える小説作法である。この本からは、彼の小説への志の高さが感じられて気持ちがよかった。 冒頭に小説の定義が書いてある。これだけ簡潔で的を射た小説の定義は読んだことはない。 それは小説とは”個”が立ち上がるものだということだ。べつの言い方をすれば、社会化されている人間のなかにある社会化されていない部分をいかに言語化するかということで、その社会化されていない部分は、普段の生活ではマイナスになったり、他人から怪訝な顔をされたりするもののことだけれど、小説には絶対に欠かせない。つまり、小説とは人間に対する圧倒的な肯定なのだ。 たまたま、森鴎外「北条霞亭」(ちくま文庫)(ISBN:4480030891)を拾い読みをしていたが、鴎外の史伝物はこの小説