トリックの本質は「隠蔽」である。これには二つの意味がある。一つは、トリックを用いることによって真相を隠蔽するということ。もう一つは、そこでトリックが用いられているということも隠蔽されなければならないということだ。奇術においては、巧妙に仕掛けられたトリックによって真相が観客から隠蔽され、かつ、いかなるトリックが用いられているのかすら隠蔽されているので、あたかも奇蹟が行われたかのように錯覚するのだ。 しかし、ミステリの場合はちょっと事情が異なる。なるほど、ミステリにおいてもトリックは「隠蔽」という本質を失ってはいない。しかし、そこでは常に「暴露」とセットになっている。小説のラストシーンでは、トリックのメカニズムは名探偵によって解明され、奇蹟は消滅するのだし、そもそも最初から読者は「ここに何かトリックがあるに違いない」と身構えているのだから、最初から暴露されているのも同然だ。また、時にはトリック