伊藤正直、小池良司、鎮目雅人 本稿では、1980年代の金融経済情勢ならびに金融政策運営について、日本銀行アーカイブ資料をはじめとする同時期に作成された資料を活用しつつ、当時の日本銀行からみた認識を整理する。この時期の金融政策運営を歴史的観点からみると、以下に挙げるように、金融政策運営上の教訓となる大きな経済変動を経験する中で、その後の金融政策運営の柱となった考え方や金融調節手法等が生まれるきっかけとなったという点で、大きな転換期であったと位置付けることが可能である。 第1に、80年代を通じ、対外不均衡是正に配慮した金融政策運営を行わざるを得ない状況が長く続いたが、80年代末になると、政策運営上、中長期的な物価安定を目指す方向へと徐々に移行していった。第2に、この間の資産価格やマネーサプライ、銀行貸出の大幅な変動については、相応の注意は払われていたものの、そのマクロ経済への中長期的な影響に関