自己所有権テーゼ論駁 柏葉武秀 はじめに われわれは自分の身体を好きなように使ってよいし、その結果手にするであろう果実(典型的には 所得)を自身のものとしてよい。そのさい、他の人々や社会といった「自分以外」のなにものかに負 うところはないし、それゆえ干渉される筋合いもない。このような直観は、素朴ではあれあるいはそ れだけ一層、根強いように思われる。かかる直観を「自己所有権」としてまとめあげ、解明に乗り出 したのがG・A・コーエンである。 コーエンによれば「自己所有権テーゼ」とは以下のようなものである。 「各人は自分自身の身体とその諸力を道徳的に正当な仕方で所有する主体であり、したがって (consequently) 彼らが自分の力を他者に対する攻撃に向けないかぎり、 、 各人は望むとおりにその 諸力を行使する(道徳的にいって)自由をもつ、というのものである。……、自己所有権テーゼに よれ