読んでいて頭に浮かんだのはテッド・チャンの短編『理解』だった。あれは超人的で読者にも理解不能なまでの理解力を得た人間同士の対決がその超人の視点によって描かれた作品なので、本作とはまったくの別物なのだが。 今年は野崎まどの本をすべて読んだが、やはりこの人は超人を書くのが抜群に上手い。読むまではミステリ作家なイメージがあったけど、読み終わってみるとこの人がSFを書くのは必然だったように感じる。この本には二人の天才が登場する。一人は世界を革新させ、すべてのシナリオを書いた天才<道終・常イチ>、もう一人は道終・常イチの娘であり、すべてを知る少女<道終・知ル>。前者はわかりやすい天才だ。常人とは想像力が違う。主人公に道を示して、その14年後のことまで予想をつけてすべてを準備した。情報材による現実のほぼすべてを情報化しネットワーク化して、それを使用するために人間の脳に取り付ける電子葉を開発した。後者の