ジャガタライモ、すなわちジャガイモ(Solanum tuberosum L.)を馬鈴薯ではないと明瞭に理解している人は極めて小数で、大抵の人、否な一流の学者でさえも馬鈴薯をジャガイモだと思っているのが普通であるから、この馬鈴薯の文字が都鄙を通じて氾濫している。が、しかしジャガイモに馬鈴薯の文字を用うるのは大変な間違いで、ジャガイモは断じて馬鈴薯そのものではないことは最も明白かつ確乎たる事実である。こんな間違った名を日常平気で使っているのはおろかな話で、これこそ日本文化の恥辱でなくてなんであろう。 昔といっても文化五年(1808)の徳川時代に小野蘭山(おのらんざん)という本草学者がいて、ジャガタライモを馬鈴薯であるといいはじめてから以来、今日にいたるまでほとんど誰もこれを否定する者がなく、ジャガタライモは馬鈴薯、馬鈴薯はジャガタライモだとしてこれを口にし、また書物や雑誌などに書き、これをそう