はじめに 歴史を紐解けば、奴隷から身を起こして君主になった人間は少なくない。その例として、エジプトのマムルーク朝や北インドの奴隷王朝の一部君主、伝説上の存在ではあるが第6代ローマ王セルウィウス・トゥッリウスが挙げられよう。さすがに奴隷ほど極端に低い身分からはそう頻繁には出ないが、貧農の末子として生まれて明王朝を開闢した朱元璋(=洪武帝)など、賤民からの劇的な成り上がりを遂げた例はかなり多い。 逆に、生まれながらの君主一族が奴隷身分に転落した事例もある。具体的には、人身売買業者に捕らえられたイースター島の伝統的支配層や、靖康の変ののちに「洗衣院」と呼ばれる金王朝の官営売春施設に収容されて性奴隷として奉仕させられた宋王朝の女性皇族ら、イギリスのヴィクトリア女王に気に入られたエグバド族の王族サラ・フォーブス・ボネッタが挙げられる。 オットー・ピルニー『奴隷商人』(1919年) では、これら二つを